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  • 2022.08.10

筋肉がつる事への対処法はあるのか

夏の甲子園が行われており、中継を観ていて「選手の足がつる」シーンをよく見かけました。1試合の中で何人か発生したときもあったし、何試合か連続して誰かしらが発生する事もありました。

足に限らず、この筋肉がつる現象を「筋痙攣」といいます。久しぶりにこのテーマについて調べたので、現状で分かっていることを書いていきます。

筋痙攣とは

筋痙攣は、一時的ではあるが激しい痛みを伴う骨格筋の不随意収縮で、様々な状況下で発生する可能性があります。例えば、前述の野球プレー中など運動中に発生したり、寝ている時にいきなりつったり、変な体勢をとったときにつったり、様々なケースで突然起こります。

その中でも、運動関連筋痙攣は、様々なスポーツや運動活動(肉体労働含む)において、比較的よく見られる現象です。

筋痙攣の発生する場所(筋肉)は、本当に様々です。スポーツでよく見かけるのはふくらはぎが、指を良く使う人なら手指、といった具合です。ちなみに私はベンチプレスをする際、背中が高確率でつります。これは背中を反るためです。

筋痙攣の強さと持続時間は非常に多様です。また、筋痙攣は非常に予測困難であり、シナリオによって異なるメカニズムが作用している可能性が高いと考えられています。

運動中または運動直後に起こるけいれんの原因および治療法は、現状では”コレ”だ、という確定したものがなく、まだ不明とされていますが、おそらくコレではないか?とされている情報で書いていきます。

筋肉がつる原因

では、なぜ筋肉がつるのか?です。

よく言われているのは、発汗により電解質バランスが崩れて・・・、と言われています。これも原因の一つですが、私はベンチプレス(その日の1種目目)をするときに汗はまだかいていないし、夜寝ている時につる人はスポーツのように大量の汗をかいていないケースもあります。発汗だけでは説明がつかないのです。

今のところ、以下の2つの原因のどちらかで筋痙攣が発生すると考えられています。

  1. 水分および電解質のバランス障害と関連している可能性があるという証拠がある
  2. 患部筋肉の疲労に続発する異常な脊髄反射活動に関連していると考えられている

運動に起因する水分-電解質バランスの乱れ

激しい運動を伴う職業環境における自然発生的な筋痙攣は、〝高い周囲温度″と〝大量の水の摂取を伴う大量の発汗″が危険因子であることを示唆しています。

例えば、夏の暑い時期の屋外でのスポーツや肉体労働で大量の発汗をする事に加え、大量の水(普通の水)を飲むと、体内のミネラルが希釈されてバランスが崩れます。これにより筋痙攣を起こしやすくなります。

汗による電解質不均衡が一部の筋痙攣の要因であるという最も強力な証拠は、1920年代と1930年代に行われた、主に鉱夫、船舶ストーカー、建設労働者、製鉄所労働者の大規模な観察研究と前向き研究で見つかりました。また、けいれんは勤務の後半に起こりやすく、体力のない男性に多いことから、汗の損失だけでなく、疲労も原因として考えられます。

  • 高い気温
  • 口や喉の乾燥による水の飲み過ぎ
  • 過酷な労働の継続

これらが運動における筋痙攣発生の原因として挙げられるでしょう。

脊髄販社による影響

実験室での研究は困難ですが、電気刺激や筋肉を短縮した姿勢で小さな筋肉を強く収縮させる実験モデルは、全員ではないが、多くの人にけいれんを誘発することができます。これらの研究は、筋肉の感覚器官が異常な反射活動を引き起こし、その結果、痙攣を起こした筋が持続的に運動することが示唆されています。

冒頭に述べた、高校球児によく見られた足がつる原因は主に①と予想されます(しかし、もしかしたら②かもしれない事は頭に入れておく必要がある)。一方で私がベンチプレス中に背中がつるのは②の可能性が高いです。ベンチプレスのフォームは背中をしっかり反った状態をキープする必要があるからで、まさに実験モデルのような状況です。

まとめると、現在提案されている筋痙攣メカニズムは、①水および電解質バランスの乱れ②脊髄反射の異常な活動です。

予防法はあるのか

原因が2つに絞れたので、どのように予防するのがベターかを考えてみます。

水および電解質バランスの乱れ

これに対しては、摂取した液体に塩を加えることで危険性が減少する可能性があります。

1920年代と1930年代の肉体労働者対象の研究は、塩水飲料や塩タブレットの投与によって、痙攣の発生率を大幅に減らすことができた、とあります。

また、「ある工場で働く12,000人の男性に与えられる水に生理食塩水を加え、近隣の工場では普通の水を与え続けた。これは筋肉けいれんをほぼ完全になくす効果があったが、前の年や、同じ年に普通の水を与えられた他の工場では、1日に最大12例のけいれんが起こり入院が必要だった。」という研究もあります。

また、炭水化物を含む電解質飲料を飲むと、筋痙攣に至るまでの時間が2倍以上伸びたという研究もあります。

従って、水分補給は、塩分を補給できる事が重要で、炭水化物(糖質)を含んでいると尚良さそうだ、という事がわかります。

ここでよく水分補給に用いられる飲料を比べてみます。

ポカリスエットの方が、わずかに食塩相当量が多いので、予防には良いかもしれません。一方で、両製品とも砂糖が多いので、口の中に粘り気というか甘さが残り、不快感が気になるのも否めません。この状態でスポーツや肉体労働を行う際、集中力の邪魔になる可能性もあるでしょう。

また、炭水化物が多いものを胃に入れて運動すると、胃が痛くなる可能性があります。かといって薄めて飲んだら塩分摂取量が相対的に減る事になります。

上記2つよりも、水分補給に適している製品があります。

経口補水液というカテゴリーで、熱中症予防などに用いられます。塩分が多く含まれるので筋痙攣予防も期待できそうです。また、炭水化物量もスポーツドリンクに比べて少な目なので、口に残る不快感はあまりなく、胃が痛くなる可能性も抑えられます。

少し値段が高くなりますが、スポーツの現場(特に炎天下のもと行われる時)は、経口補水液を用意しておくのがベターです。予算が限られているなら、必然的に運動量が多くなる先発出場の選手分は用意しておくと良いでしょう。

脊髄反射の異常な活動

急性筋痙攣の治療は受動的ストレッチであると述べられています。また、同じグループは、「不規則なストレッチ習慣」がけいれんのリスク上昇と関連していることを示唆しました。

静的ストレッチとストレッチなしの条件を比較したところ、コントロールとストレッチ条件の両方でけいれん発生頻度が増加しましたが、条件間の差はありませんでした。

この件に関しては、どのように予防したらよいかはまだ分かっていません。

つった場合どうするか

筋肉がつってしまうのは予測できないので、つった時にどうするか?を考えておくことが重要です。

”急性筋痙攣の治療は受動的ストレッチ”とあるので、まずは周りの人がストレッチをサポートして上げる事が大事です。これで、筋肉が著しく収縮した状態は改善すると思います。

ここまではよくある対処法だと思いますが、もう一歩踏み込むとすれば、

  • 患部に筋肉痛や違和感が残っていること
  • 再度痙攣をおこしやすい状態であること
  • 痛みと再発不安によるパフォーマンスの著しい低下が起こる
  • 場合によっては技術全体の崩れに陥る可能性

これらの事から、控えの選手と交代する事が合理的だと考えます。

甲子園を観ていると、筋痙攣を起こした選手が治療を受け、そのまま戻ってくるケースが多いです。外野手なら仕事は多くはないのでプレーへの影響は小さいでしょう。

しかし、これがピッチャーだった場合は悲惨です。患部に痛みや違和感を抱えながら投げているので、球威はかなり落ちているし、フォームも患部を庇いながら恐る恐る投げているような感じです。仮に勝ったとしても次の試合に患部の違和感が残っていたり、フォーム技術の維持均衡が崩れて調子を落としたりすると、不完全燃焼になる可能性があります。

最悪なのは実況解説が「気持ちで投げててエライ!」みたいな精神論を持ち出し、称えてしまっている点です。業界全体にその意識が蔓延るのは良くないと思います。

軽度でもケガをした選手を引き続き使うのと、ベンチで体力を温存していた選手を出してあげるのと、どちらがパフォーマンスが高いでしょうか?また、学校が関与するスポーツですか、精神論ではなく合理的判断や、極力全ての選手が活躍できる場を提供する事の方が教育上大事だと思います。

控えの選手が用意できない事情もある(特に部員の少ないチーム)のは理解できますが、それでも同じポジションの控えは2~3枚は用意していると思うので、不可能ではないはずです。

話が逸れましたが、筋痙攣が起こった場合は「ストレッチをかけてあげる」、そして「控えの選手と交代する」のが最も良い対応だと考えます。

もし、試合序盤で起こってしまったら、控えを出すのがまだ難しいというケースもあるかもしれません。その場合は、もう一度痙攣が起きたら交代、パフォーマンスどれだけ下がったら交代、という明確な条件を設定して引き続き採用するのが良いと思います。

マグネシウムに効果は無い

マグネシウムのサプリメントは、筋痙攣の予防の為に販売されています。しかし、”マグネシウムの補給は運動以外の筋痙攣に対する予防には効果が無い”という結果がほとんどです。運動関連筋痙攣に対するマグネシウムを評価する無作為化対照試験は見つかっていません。

マグネシウム摂取に頼るのは、コストと効果を考えれば、現時点ではあまり得策ではないでしょう。

まとめ

以上、夏の甲子園で筋痙攣をかなりの頻度で見かけたため、文献を調べて今現在、分かっていることを元に対応の仕方についても考えてみました。

筋痙攣は突然起こったり起こらなかったりするので、研究がなかなか進まないテーマでもあります。ゆえになぜ起こるのか?どうしたら防げるのか?がハッキリと分かっていません。

従って、選手や肉体労働者たちは経口補水液で予防をしつつ、監督者はもし起こってしまった時のプランをいくつか用意しておくようにしましょう。

10~15年前と今年の夏は明らかに違う何かを感じながらこの記事を書きながら、今年の夏も何とか乗り切ろうと思うのでした。


参考文献

Muscle Cramping During Exercise: Causes, Solutions, and Questions Remaining

Magnesium for skeletal muscle cramps

Effect of oral magnesium supplementation for relieving leg cramps during pregnancy: A meta-analysis of randomized controlled trials

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