現代の日本人の食と栄養は世界一優れている
日本人の平均寿命は世界一長いことはよく知られています。その要因の一つは“食事”だと考えられています。
今回は日本人の食事がどのように優れているかを見ていきたいと思います。
国際比較
世界保健機関のデータベースから、G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス(UK)、アメリカ(US)のアルファベット順)のグループの平均寿命と健康寿命は、男女とも日本が最も長く、特に女性の長寿が際立っています。年齢標準死亡率も最も低く、米国の約2/3です。
死因別では、がん(特に乳がん、前立腺がん)と虚血性心疾患による死亡率が低いことが特徴的です。一方、脳血管疾患や感染性呼吸器疾患による死亡率は比較的高いです。
1981年以降、日本人の死因のトップはがんで、2018年の総死亡数の27%を占め、次いで心臓病が15%となっており、近年の日本人の長寿は、総死亡者数の半分近くを占めるこれらの疾患の死亡率が低いことに起因しています。
年次推移
図は、経済協力開発機構(OECD)が作成した保健統計によるG7諸国の平均寿命の推移を示したものです。
1960年代前半に日本が最も平均寿命が短かったのに対し、1960年代後半に日本の男性が、1970年代半ばに女性が最も長くなっています。2016年の日本の平均寿命は、男性81歳、女性87歳で、過去最高を記録しました。女性は1980年代以降、世界トップクラスの長寿を誇っています。
主なリスクファクター
G7諸国における日常的なタバコの喫煙は、日本人男性で最も多いですが、日本人女性では最も少ないです。日本人のタバコ消費量は1920年から急増し、第二次世界大戦中に一時的に減少した後、1970年代半ばにピークに達し、その後着実に減少しています。1970年に約80%だった男性の喫煙率は、2013年には約30%になっています。一方、女性の喫煙率はそれぞれ約15%、8%と常に低い水準で推移しています。
一方、高血圧の有病率は男女とも他国と比較して中程度であり、肥満と肥満度の有病率は顕著に低い結果となっています。
食生活の要因
表は、国連食糧農業機関(FAO)のデータベースから、G7諸国の食糧供給量を示したものです。
特徴として、日本は肉類(特に牛肉などの赤身肉)、牛乳・乳製品、砂糖・甘味料、果物・芋類が少なく、魚介類、米、大豆、お茶(主に緑茶)が多く消費されていることがあげられます。
国民健康・栄養調査からエネルギー摂取量の推移を見ると、戦後間もない1946年には1人当たり1903kcalだったのが、1951年には2125kcalに急増。その後、1951年に2125kcalに急増し、しばらく横ばいで推移した後、高度経済成長期に再び増加し始め、1971年に2287kcalでピークに達しました。1973年のオイルショックによる高度経済成長の終焉を受けて、エネルギー摂取量も減少を続け、2011年には1840kcalと戦後最低を記録しています。
摂取エネルギーの変化を炭水化物、脂質、たんぱく質の三大栄養素別に分解すると、日本人の食生活の質的変化が明らかになります。
戦後のエネルギー摂取量の増加は、主に動物性食品からの固形物やたんぱく質の摂取量の増加によるものでした。一方、炭水化物の摂取量はこの間減少を続け、その主な原因は日本人の主食である米の摂取量が減少したことにあります。戦後の脂肪摂取量の増加は、肉類、牛乳、乳製品の摂取量の大幅な増加によるものです。
エネルギー摂取量は、身体活動量とのバランスに左右されます。最近の日本人のエネルギー摂取量の減少は、職場の自動化や自動車の普及に伴う身体活動の減少に対応したものであると考えられます。その結果、戦後BMIが上昇し、労働環境が大幅に改善された男性は太り続けました(ただし、近年はバランスが取れ、直近では減少傾向)。専業主婦の割合が高い女性では、エネルギー摂取量の減少と並行して、一部の年齢を除いてBMIが低下する傾向にあります。男性のBMIは上昇傾向にあるが、それでも欧米諸国と比較してかなり低い水準にあります。
日本は食塩摂取量が多いことで国際的に知られていますが、1973年の14.5gから2017年の9.5gまで、着実に減少しています。1973年以前はもっと高かったと推定されます。
なぜ日本人は長寿なのか:国際視点
赤身肉の摂取が少なく、魚、植物性食品、非砂糖飲料の摂取が多いという特徴を持つ食事パターンは、以下のように、がんや虚血性心疾患による死亡率が比較的低く、肥満の有病率が低いことと関係があるとされています。
赤肉と魚
日本では、赤身の肉、牛乳・乳製品が少なく、魚介類が多いという食事パターンにより、飽和脂肪酸の摂取量が少なく、n-3系海洋多価不飽和脂肪酸の摂取量が多くなっています。お寿司や刺身をよく食べるからですね。
飽和脂肪酸の食事摂取は、脳血管疾患のリスク低下に対して、虚血性心疾患のリスク上昇と関連しています。これは、肉の脂やバターなどの乳脂肪分が該当します。さらに、n-3系多価不飽和脂肪酸の食事摂取量は、虚血性心疾患のリスクと逆相関しています。魚の油、えごま油、亜麻仁油などです。
日本では赤身の肉が少なく魚の消費が多いことが、虚血性心疾患による死亡率が比較的低く、脳血管疾患による死亡率が高いことと関連している可能性があります。
大豆および非でんぷん性野菜
日本を含むアジア諸国では、大豆が主に消費されており、抗がん作用および抗心血管作用があることが知られている“イソフラボン”の唯一の供給源となっています。アジアの人々で消費される量のイソフラボン摂取は、乳がんおよび前立腺がんのリスク低下と関連しています。
大豆の摂取量が比較的多いことが、日本における乳がんおよび前立腺がんの死亡率の低さの原因である可能性があります。
大豆およびイソフラボンの摂取はまた、心血管疾患、特に脳梗塞および心筋梗塞のリスクと逆相関しています。前向き研究において、発酵大豆製品の摂取は総死亡率および心血管系死亡率と逆相関することが示されました。
大豆はまた、植物性タンパク質の主要な供給源でもあります。別の研究において、植物性タンパク質摂取量の多さが総死亡率および心血管疾患死亡率の低下と関連すること、そして赤肉タンパク質に植物性タンパク質からのエネルギーの3%を入れ替えると総死亡率、がんおよび心血管疾患死亡率の低下と関連することが示されました。
このように植物性たんぱく質の摂取量が多いことも、日本人の長寿に関係しているのかもしれません。
砂糖の摂取を控え、無糖の緑茶を飲む
砂糖・甘味料や芋類の消費量が少なく、緑茶の消費量が多いことは、世界的に肥満の有病率が低く、虚血性心疾患や乳がんなどの肥満に関連する疾患の発生率が低いことと一部関係があるかもしれません。緑茶の摂取が全死因死亡率及び心血管死亡率と逆相関することを示されています。
食生活の多様性
さらに、日本人は穀物、野菜、果物、魚や肉、乳製品など様々な食品を摂取する傾向があり、この食事パターンは日本人の長寿と一部関連しているかもしれません。前向き研究では、食事の多様性とバランスのとれた食事を推奨する日本食ガイドの遵守が全死因死亡率と逆相関することが示されました。
なぜ長寿に変化したのか:日本視点
日本人の平均寿命と死亡率の変化を、食事や栄養摂取量の変化と合わせて考えると、戦後の栄養状態の改善により、結核や肺炎などの感染症や脳出血による死亡率が大幅に低下したことがわかります。このことは、平均寿命の継続的な延長をもたらしたと考えられます。
栄養状態の良い人は、感染症の重症化が抑えられ、回復が早いことはよく知られています。脳血管障害では、血管壁の重要な構成成分であるコレステロールが不足し、血管が破裂する脳内出血のリスクが高まっています。動物性食品、牛乳・乳製品の増加、ひいては飽和脂肪酸の増加は血管壁を強化し、カルシウムは食塩摂取量の減少や降圧剤の普及とともに血圧を低下させ、結果として脳血管疾患を引き起こすことになりました。さらに、食塩や高塩分食品の摂取量の減少は、胃癌の減少をもたらしたと考えられます。
一方、動物性脂肪やたんぱく質の増加は、栄養状態を改善した場合、脳梗塞や虚血性心疾患、糖尿病、大腸・膵臓・前立腺・卵巣・乳房などのいわゆる西洋型がんの増加をもたらしたと推定されます。これらの疾患のリスクは、実際、栄養過多とそれによる肥満、運動不足、牛肉、豚肉、羊肉などの赤肉の摂取によって増加することが知られています。
しかし、1970年代半ばに脂肪とたんぱく質の摂取量は横ばい、その後、エネルギー摂取量は減少しました。これに連動するかのように、まず脳梗塞の増加が止まり発症率が減少に転じ、数十年のタイムラグを経て、いわゆる西洋型のがんが横ばいあるいは減少に転じる傾向が見られるようになりました。
以上のことから、エネルギーなどの栄養素の増加、動物性食品の増加、塩分の減少という食生活の欧米化は、戦後の日本人を総じて健康にしたと考えられます。
戦後初めて発見された食の欧米化の収束は、1970年代から経済情勢を背景に加速され、魚介類や大豆などの植物性タンパク質、穀物や野菜の摂取量が欧米諸国より多くなり、脂肪エネルギー比率も低い状態が維持されています。BMIは男性で増加する傾向ですが、それでも肥満が大きな健康問題である欧米諸国と比較すると大幅に低い値を維持しています。
結論
日本人は、虚血性心疾患とがん(特に乳がん、前立腺がん)の死亡率が著しく低く、脳血管疾患と呼吸器感染症の死亡率が比較的高いことが特徴です。世界一の長寿国は、がんと虚血性心疾患の死亡率を低く抑えながら、過去に高かった感染症、脳血管疾患、肺炎による死亡率を大幅に減少させたことによるものでした。
低肥満、飽和脂肪酸の摂取が少なく、n-3系多価不飽和脂肪酸、大豆などの植物性食品、緑茶などの無糖飲料の摂取が多いことが、がんや虚血性心疾患による死亡率を低くしていると考えられます。かつて、脳血管疾患や胃がんの死亡率が極めて高かったのは、食塩摂取量が比較的多く、飽和脂肪酸やカルシウムの摂取量が少なかったためで、それもマイルドな食の欧米化により減塩が達成され死亡率は改善されています。
植物性食品と魚を特徴とする典型的な日本食と、肉、牛乳、乳製品などの控えめに欧米化された食事が、日本人の長寿と関連していると考えられます。
さまざまな食事方法(地中海食、糖質制限食、ビーガン食など)がありますが、マイルドな欧米化を達成した日本食は、すでにかなり完成された食事だと思います。
また、今回、参考にした文献には海藻についての考察はありませんでした。海藻を食べるのは日本人だけとされています。海藻から水溶性食物繊維を摂取するのも、体重維持や血糖維持に大きく関わっています。海藻を分解できるのは日本人だけ?とも言われており、健康にはかなり有利な体質なのでしょう。
パーソナルジムには減量をしたい人が沢山いらっしゃいますが、和食にするだけでストレスなく適正体重に向かうことが多いです。食事量を大きく減らさずしてカロリーを大きく削減できるからです。体重が気になる方は、現在の食事が欧米化に偏り過ぎていないかを確認してみましょう。7割を和食にすると良いですよ。塩分には注意しましょう。
参考
- 世界保健機関
- OECD
- 国連食糧農業機関(FAO)
- 国民健康・栄養調査
- Why has Japan become the world’s most long-lived country: insights from a food and nutrition perspective
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