女子サッカー選手への栄養補給のすすめ
最適にバランスのとれた食事は、スポーツのパフォーマンスにプラスの影響を与える要因の一つです。一部の栄養素の過不足は、スポーツの結果に悪影響を及ぼす可能性があり、最適に調整されていれば、食事割当はトレーニングおよび競技中の身体の効率を最大化することができます。したがって、トレーニングによって得られる利益を最大化し、公式競技での成功の可能性を高めるために、競技ごとに対する食事の推奨を定める必要性があります。
サッカーは世界で最も人気のあるスポーツの一つであり、その人気は今もなお上昇し続けています。2000年から2006年の間に、国際サッカー連盟(FIFA)は、現役のサッカー選手の数が9%増加し(2億4200万人から2億6500万人)、この期間の現役女子サッカー選手の数は19%増加(2190万人から2600万人)したと推定しています。2014年には、約3,000万人の女性がアクティブにトレーニングを行っていました。FIFAは、サッカーに参加する女性の数を増やすことを目標の1つに掲げています。
女性にとって必要な栄養は、男性のそれとは異なります。多くの栄養勧告において、男女別の勧告が観察されています。このスポーツでは男性が圧倒的に多いため、女性はしばしば注目されてきませんでした。サッカー選手の栄養面に関する多くの研究の中で、女性を対象としたものは非常に少ないです。
したがって今回は、選手やトレーナー、サッカーの指導者が使用できるような、女性サッカー選手に対する簡潔な知識と推奨事項を提供し、その使用により、トレーニング効果を最大化し、スポーツでの成功の可能性を高め、ケガの可能性を減らし、運動後の回復プロセスをサポートする目的で記事を書いていきます。
女子サッカー選手はもちろん、男性サッカー選手も目を通していただければと思います。
エネルギー
すべてのアスリートは、それぞれのスポーツの目標によって示される個別のエネルギー必要量をもっています。したがって、エネルギー必要量の決定は、基礎代謝量と食事による熱発生だけでなく、選手の個々の身体活動に基づいて行う必要があります。
女子サッカー選手グループのエネルギー消費量は2811±493kcal/日(45.7±9kcal/kg/日)のレベルであることが示されました。47~60kcal/kg/日のレベルのエネルギー消費は、女性のサッカー選手にとって適切であると示唆しています。
体重60kgの選手の場合、90分の競技試合でのエネルギーコストは約900kcal、カジュアルな試合のエネルギーコストは約630kcalとなります。基礎代謝量をこちらで計算し、エネルギーコストを足してみてください。2811±493kcal/日あたりに収まると思います。
FIFAは、エネルギー消費は、競技のレベル、サッカーのポジション、プレースタイル、トレーニングのレベルに強く依存することを強調しています。
タンパク質、炭水化物、脂質を適切に摂取することで、食糧のエネルギー価を適切に保つことができます。さらに、すべての3大栄養素はアスリートの体内で特定の役割を担っており、その適切な摂取は体力の最大化とスポーツ競技での成功の可能性に密接に関係しています。
女子サッカー選手に対する3大栄養素の推奨摂取量
炭水化物(CHO)
適切な炭水化物(CHO)の摂取は、プロスポーツ選手の高いトレーニング負荷に対応するための重要な要素です。摂取したCHOは、グリコーゲンとして貯蔵され、トレーニング中の筋肉のエネルギー源となります。肝臓と骨格筋の両方にグリコーゲンとして貯蔵されている炭水化物は、試合中とトレーニング中の両方で不可欠なエネルギー源であり、長時間の体力消耗の際には、CHOの供給量が制限要因となります。(貯蔵した炭水化物が枯渇するとパフォーマンスが著しく低下する)
サッカーの試合の分析によると、選手が試合中に要求される運動強度は70-80%VO2maxのレベルであり、このレベルでの長時間の努力は、ほとんどがエネルギー代謝の基質としてのグリコーゲンに基づいています。したがって、トレーニング前・中・後の十分な炭水化物の摂取は、グリコーゲンの貯蔵量の維持と回復に寄与し、筋疲労の影響を遅らせ、パフォーマンスを向上させることになります。
- 低強度:3~5g CHO/kg/日
- 中程度(~1時間/日):5~7g CHO/kg/日
- 中程度持久(中~高強度運動1~3時間/日):6~10g CHO/kg/日
- 高強度持久(中~高強度運動4~5時間以上):8~12gCHO/kg/日
- 中程度の時間/低強度のトレーニングプログラム:5~7 g CHO/kg/日
- 中程度から高強度の持久力トレーニング:7~12 g CHO/kg/日
サッカーのゲームでは、中程度の持久的運動がほとんどを占めます。したがって、1日の炭水化物摂取は、体重1kgあたり5〜10g、が推奨量となります。
トレーニングや試合の前に一定期間炭水化物を摂取すると、グリコーゲンの貯蔵量が増え、血糖値が安定し、筋肉や肝臓のグリコーゲンが節約されます。血糖値の安定は、糖新生による筋肉の分解を抑える事にも繋がります。
運動中の炭水化物摂取の重要性は、文献上でも強調されています。運動中の炭水化物摂取により、プラセボ群と比較して、選手がサッカーのスキルやスプリントをより長く維持できることを指摘するものもあります。
1-2時間の身体的努力(標準的なトレーニングやサッカーの試合など)中のCHO摂取量は30g/hのが望ましく、2-3時間の努力は60g/hに相当すると勧告しています。
最後に、重要な要素として、運動後の十分な炭水化物の摂取が挙げられます。運動後のCHO供給は、グリコーゲンの再合成を目的としています。グリコーゲンの回復速度が最も速いのは、トレーニング後の最初の数時間です。したがって、運動後できるだけ早く炭水化物を供給することが望ましいです。推奨では、2回のトレーニングセッションの間隔が8時間未満である場合、最初の4時間は1~1.2g/kg/hの量を示していますが、これは男性の場合なので、筋肉量及びプレー中の運動量が少ない女性の場合、もう少し少ない量でも十分かもしれません。
タンパク質(protein)
タンパク質は、筋タンパク質合成の調節、体重調節、成長刺激、運動後の再生などに関与し、アスリートの食事において重要な役割を担っています。タンパク質とアミノ酸はパフォーマンスにとって重要であると認識されています。
様々な研究や組織の提言をまとめると、1日に必要なタンパク質量は、体重1kgあたり1.2~1.7g、となります。
ほとんどの場合、女性のサッカー選手は十分な量のタンパク質を消費していることが研究で示されています。アスリートはタンパク質の重要性を十分理解しているようです。
炭水化物と同様に、タンパク質もトレーニング前後の適切なタイミングで摂取する必要があります。特に需要の高いタイミングは、主にトレーニング後の時間帯です。
20gのタンパク質または9gの必須アミノ酸(EEA)の摂取は、運動中および運動後2時間までの筋タンパク質合成のプロセスを刺激することが研究で示されています。さらに、身体活動直後に食事を摂ることは、活動終了後3時間後に同じ食事を摂る場合よりも優れた再生効果をもたらします。
運動が終了したら、すぐにプロテインなどでタンパク質かEAAを摂取しましょう。
特に注目すべき栄養素に“ロイシン”があります。これは、3つの分岐鎖アミノ酸(BCAA)の1つであり、骨格筋タンパク質のおよそ3分の1を構成します。十分なロイシンの供給は、筋タンパク質合成の活性化にとって重要です。
タンパク質1.2g/kg/日の最低必要量を摂取することで十分な量のロイシン摂取を達成することができます。BCAAサプリメントは、2-3gのロイシンを含むように3-4時間おきに摂取するのがおすすめです。
脂質
脂肪は、エネルギー源としてだけでなく、細胞壁の必須要素であり、特に注目すべき栄養素のひとつであるビタミンDを含む脂溶性ビタミンの供給源である。一方で、サッカー選手にとって、高炭水化物食が高脂肪食よりも有利であることが分かっています。
脂肪はプレーヤーの食事のエネルギー値の30%未満にコントロールしましょう。かといって極端にカットする必要はありません(例えば、10g未満を目指すなど)。『炭水化物とタンパク質を意識して摂取したら脂質が付いてきた。それが全体の摂取カロリーの30%未満になっていればOK。』くらいの考えで良いでしょう。
微量栄養素
鉄分
鉄は、アスリートの食事において重要な微量栄養素の一つです。人体では、酸素運搬とエネルギー産生を担っており、持久力の発揮に必要です。鉄欠乏による貧血は、パフォーマンスの低下を招きます。
さらに、鉄貯蔵量の枯渇は、有酸素性トレーニングの適応に影響を与え、筋疲労を増加させ、最大下運動中のエネルギー効率を低下させます。
女性の鉄分の1日推定平均必要量EARは、15歳以上8.5mg、30歳以上9.0mg。推奨量は10.5mgと11.0mg。上限は40mgです。
アスリートの中でも女性は特に鉄欠乏に陥りやすいです。これは、とりわけ、生理中にこの微量栄養素が失われることが原因です。女性アスリートにおける鉄の需要は、最大70%EARまで増加します。
したがって、女性アスリートの1日推定平均必要量は15-18mg程度になると考えられます。この量は肉や魚を食べつつ、毎日100g程度のレバーを摂らなければ追いつきません。この食事は現実的ではないので、サプリメントを活用した方が良いでしょう。
サプリメントで8-10g、食事で8-10gくらいの摂取を目指すのが現実的です。レバーを食べる日(週に1〜2日とか)はサプリメントをお休みするのが良いかと思います。ちなみに部位によりますが、肉や魚を100g食べると約2gの鉄分が摂れます。朝昼晩で肉か魚を食べれば少なくとも6gは摂れるでしょう。
カルシウム/ビタミンD
カルシウムとビタミンDは、主に骨の健康維持に関与するため、アスリートにとって重要な栄養素です。これらが体内に十分に供給されないと、骨量の減少を招き、骨損傷やケガのリスクにつながります。
カルシウムは、血液凝固、筋肉収縮、神経伝達、タンパク質利用、細胞通信に関与するなど、パフォーマンスにも関わります。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、成人1人1日当たりの推奨量を、女性で650mgと設定しています。(1回に食べる量に含まれるカルシウム含有量)
サッカー選手は日光への暴露があるため、ビタミンDを皮膚で生産するので不足になることはほぼありません。
水分補給
最適な水分補給は、トレーニングやゲーム中のパフォーマンスを決定する主な要因の一つです。また、トレーニング前・中・後のいずれにおいても、適切な量の水分を補給することが、アスリートのパフォーマンスに影響します。したがって、最適なレベルの水分補給を維持することは、アスリートのパフォーマンスにとって極めて重要であると考えられます。
トレーニング中は定期的な水分補給が可能ですが、公式試合中はハーフタイムの休憩や小休止(例えば、選手の一人が重大な反則をした結果)に限られます。
発汗量は、気温や湿度などの環境条件にも左右されます。
パフォーマンス低下を予防しつつ、水分補給による胃の不快感を避けるには、少量の水分を頻繁に摂取することが良い解決策です。
FIFAやアメリカスポーツ医学会は、トレーニング中または試合中に体重1キログラムの減少につき1.2~1.5リットルの水分を摂取することを推奨しています。
汗には、水分以外にも、失われる重要な成分“電解質”が含まれていることに留意する必要があります。汗で失われた電解質と、運動で消費した糖質を補うために、トレーニング中やトレーニング後に糖質・電解質を含む飲料を摂取することが推奨されています。※経口補水液がおすすめで、ポカリやアクエリアスなどの清涼飲料水は、糖質が多いので運動中に胃が痛くなる可能性があるため、水で少し薄める必要があります。
まとめ
- 基礎代謝量を『50~60kcal/kg/日』で計算。例)60kgなら3,000〜3,600kcal/日。
- 普段の練習(例えば、部活動で3時間程度の練習)なら3,000lcal、合宿など練習量が多い日は3,600kcalといった感じで使い分けます。
- 1日の炭水化物摂取は、体重1kgあたり6〜10g、を摂取する。これも練習量によって必要量を使い分けましょう。
- 1日に必要なタンパク質量は、体重1kgあたり1.2~1.7g。運動直後のプロテインも活用しましょう。
- 鉄分は、女性アスリートの1日推定平均必要量は15-18mg程度。サプリメントを活用しましょう。
- カルシウムは、1日当たりの推奨量650mg。
これらは全て1日の摂取量なので、3食ないし4食で割って、1食あたりの必要量を求めてください。
また、炭水化物(ご飯パン麺)やタンパク質(肉魚大豆乳製品)はもちろん、野菜や海藻、果物も毎食取り入れるようにしましょう。
試合や練習で高いパフォーマンスを維持できれば、身体は成長し、試合にも勝ちやすくなります。栄養摂取は誰でも実践することができます。一度、自分の食事が足りているか、過剰になっていないかを見直してみることをお勧めします。
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パーソナルトレーナー 井上大輔
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