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  • 2017.04.20

新たな研究の紹介 -癌と代謝-


研究論文名:Cell competition with normal epithelial cells promotes apical extrusion of
transformed cells through metabolic changes.(周囲の正常上皮細胞との細胞競合によって生じる
代謝変化が変異細胞の排除を誘起する)

 

  • 背景

がんは細胞社会の一つの細胞に変異(ミューテーション)が生じることから始まります。最近の藤田教授らの研究によって,新たに生じた変異細胞の多くは周りの正常細胞との競合の結果,体外へ排除されることが明らかになってきました。しかし,どのようにして変異細胞が排除されるか,その分子メカニズムについてはまだ多くが謎に包まれています。

  • 研究手法

独自に確立した培養細胞系とマウスモデルを用いて,正常細胞に囲まれた変異細胞における様々な栄養物やエネルギーなどの代謝(合成・分解)経路について解析しました。

  • 研究成果

正常細胞に囲まれた変異細胞において,「ミトコンドリア※1機能の低下」と「解糖経路※2の亢進」という2つの代謝変化が生じていることを突き止めました。さらに,この代謝変化が変異細胞の周囲に存在する正常細胞からの影響で生じたものであり,変異細胞の体外への排除に重要な役割を果たしていることが分かりました。興味深いことに,これらの代謝変化は,「ワールブルグ効果※3」という,がん発生の中期から後期にかけてがん細胞に生じるものと同様であることも分かりました。今回の研究によって,正常細胞が備えている「がん細胞を駆逐する能力」の一端が明らかになりました。

  • 今後への期待

これらは,これまでブラックボックスであったがんの超初期段階で起こる現象を明らかにした研究成果であり,新たながん研究分野の開拓につながる可能性があります。この研究成果をさらに発展させることによって,世界初の「がん予防薬」の開発へつながることが期待できます。

 

【用語解説】

  1. ミトコンドリア:
    エネルギー(ATP)を産生する細胞内小器官。
  2. 解糖経路:
    グルコース(糖)をエネルギーに変換する反応経路。
  3. ワールブルグ効果:
    がん化の中期から後期に生じる解糖経路の亢進。

これは非常に興味深い研究ですね。がん予防の研究は今後ますます加速するかと思います。

おそらく変異細胞に於いてミトコンドリアの機能低下が先に起きていると思われます。これにより「クエン酸回路」が機能しないことになるので、必然的に解糖系しか使えない(=解糖系路の亢進)状況になると思われます。癌細胞は糖質しか食べる事が出来ないので癌細胞にとってミトコンドリアは邪魔なのでしょう。

そう考えると、ミトコンドリアが癌予防に対し非常に重要な位置づけにあるのではないかと推察されます。

運動に置き換えれば、ミトコンドリアを増やす・活性化する運動プログラムは予防になるかもしれないと考えられます。(ATレベルでの有酸素性運動)

また、レジスタンストレーニングを行うと筋肉が糖を取り込むようになるので、間接的に癌細胞へ回る糖の量を減らす事にも繋がるかもしれません。レジスタンストレーニングでの高強度トレーニングもミトコンドリアを増加させ活性化するため癌の予防に有効な可能性があります。

食事に於いては、糖質制限により脂質代謝(クエン酸回路)を高めることで予防が図れる可能性があります。

糖質制限と定期的な運動が健康の維持増進に大きく役立つのでは無いでしょうか。