癌患者のエクササイズ
癌患者にとってのエクササイズは、治療計画に組み込むべきとても重要な要素だと考えています。
エクササイズは、がんの予防、治療、および回復に寄与する因子の一つになると思われます。
例えば、定期的なエクササイズプログラムの実施は、結腸がんの発症リスクを約50%低減することが明らかになっています。
これは「結腸が有毒物質に曝露する期間が長いほど、結腸癌を発症するリスクが高まりますが、エクササイズの実施は結腸通過時間を短縮するため、結腸癌のリスクを低減する効果が期待できる」というものです。
ちょっと難しく書いていますが、「エクササイズによって便通が良くなり、結腸癌のリスクが低下する」と認識しておくと良いと思います。
患者への運動介入
運動療法は、癌治療に伴う疲労やその他の副作用の影響を和らげる方法として主流になりつつあります。
エクササイズを治療計画に組み込んだところ、患者の体力が大幅に向上したという研究結果もあります。
エクササイズが癌による疲労への耐性を高める事は知られていますが、なぜそうなるのかは解明されていません。
エクササイズは主に精神面を充実させることも出来るので、それが患者の回復へのモチベーションアップになっているのではないかと言われています。
エクササイズ処方に関する留意点
がん治療の副作用(疲労、抑うつ、神経障害など)を引き起こす原因の改善に焦点を当てるようにします。
疲労
疲労の程度に合わせて都度強度を調整します。
研究では「60%最大心拍数~最大に近い心拍数で実施する心肺系運動は、がん患者にとって安全かつ適切である」としています。
体調に合わせておけば、一般の方への有酸素性トレーニングの強度と同じでも安全に実施できるという事ですね。
抑うつ
がん患者が経験する激しい疲労によって抑うつは引き起こされます。
エクササイズはエンドルフィンとセロトニンの分泌を促進しますから、抑うつを改善する効果があります。
従って、適切なエクササイズプログラムは、身体が精神的ストレスの多い状況を耐えるのに役立ちます。
神経障害
これは患者のバランス、コーディネーション、触覚、姿勢感覚、身体コントロールに影響を及ぼすため、エクササイズは安定した環境で実施するものだけを処方するようにします。
例えば、トレッドミルよりも自転車の方がベターですし、筋力トレーニングなら片側性エクササイズよりも両側性エクササイズの方がより安全に実施できます。
片側性エクササイズを行う場合は、手すりなどにつかまっての実施が望ましいでしょう。
エクササイズプログラム
レジスタンストレーニング
主に多関節運動を重点的に行うと良いでしょう。(これは一般健常者も同じです)
負荷は60~85%1RMを用いますが、無理のない範囲で行いましょう。
トレーニング日のスケジュールは3日に1回の頻度が良いでしょう。コンディションが良さそうなら2日に1回でも良いと思います。それ以上短いのは体力の回復が十分とれないので控える方が良いでしょう。
もちろん安定した地面の上でトレーニングを行います。決してバランスボール等を使用しないように!
トレーニングは、がんの診断と治療の開始後なるべく早期に開始し、治療が終了してからも継続する。トレーニング効果は可逆的なものなので継続する事が最も重要です。
有酸素性トレーニング
化学療法の影響が明らかになるまでは、短時間の間欠的なワークアウトを処方するのが賢明でしょう。
例えば、5 分運動して 5 分休息するといったアプローチが、負担が少ないと考えられます。
また、筋力トレーニングと同じで安定した地面の上で実施します。この場合は、傾斜や段差がないフラットな床面で行うという事です。
強度(歩くor走るスピード)を上げるよりは、運動継続時間や運動頻度を伸ばしてプログラムするのが良いでしょう。例えば週2を週3にしたり、20分を30分にしたり。
推奨される強度は、50 ~ 75%VO2max、およびBorgスケール 11 ~14 です。
まとめ
患者のコンディションをヒアリング・把握し計画されたエクササイズプログラムは安全に実施する事が出来ます。
また、体力要素(特に筋力・持久力)は自立した生活を営むのに必要な要素になるため、エクササイズを行わないという選択は考えにくいのではないかと思います。
治療中の副作用との兼ね合いもありますが、医師としっかり相談し、退院後のよりよい生活をイメージして取り組んでいくという強い意志が大事になるのではないでしょうか。
我々、運動指導者もプログラムだけでなく、精神的なサポートも含めて支えていければと考えております。
IGFには癌術後の体力向上の為にトレーニングに励んでいるお客様も数名いらっしゃいます。彼(彼女)らは上記のプログラムに基づき運動を実施する事で、皆体力向上を達成できております。
医師から運動を勧められた患者様は是非ご相談ください。
参考文献
NSCA JAPAN Volume 25, Number 10, pages 56-60