肉食と植物性食品、偏りは一長一短
世界的な食糧生産が気候の安定性と生態系の回復力を脅かしており、現在の食糧システムの持続可能性についての検討がなされています。さらに、9人に1人が栄養不良または飢餓状態にあり、3人に1人が過体重または肥満であり、20億人が微量栄養素の欠乏に苦しんでいると推定されるように、世界人口の大部分が栄養不良に苦しんでいます。
不健康な食生活は栄養失調の主な原因であり、どちらも世界的な疾病負担に寄与するトップ10の危険因子の一つです。
(日本に住んでいると、このような実感はほとんど無いでしょうが。)
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)による持続可能で健康的な食生活のための指導原則が発表されました。どちらの報告書も、果物、野菜、豆類、全粒穀物、ナッツ類を豊富に含み、魚、卵、鶏肉、乳製品もあるが、赤肉とでんぷん質の野菜は制限したバランスのよい食事を推奨しています。
植物性の食事には、セミベジタリアン、フレキシタリアン、ペスコベジタリアン、ラクトオボベジタリアン、ビーガンなど、さまざまな種類があります。
世界的に現在の食事から植物ベースの食事にシフトすることで、非伝染性疾患による早期死亡のリスクを18~21%下げ、温室効果ガスの排出を54~87%削減できると推定されています。
植物由来の食事はより健康的であると考えられていますが、健康的な生活に必要な栄養素を毎日適量摂取するためには、バランスの取れた多様な食事が必要とされます。しかし、植物性食品を摂取している集団におけるより幅広い栄養素の食事摂取量と栄養状態に関する評価は、現在のところ不足しています。
そこで、植物性食品を摂取している成人のエネルギー、微量栄養素の摂取量と状態を評価し、肉食の人と比較するための研究を確認してみたいと思います。
方法
2000年から2020年1月までに発表された観察研究および介入研究の系統的レビューを行い、植物由来の食事(主にベジタリアンやビーガン)を摂取する成人集団と肉食の集団における栄養摂取と状態を評価した。
栄養素の平均摂取量を算出し、食事摂取基準値にベンチマークした。
結果
- 微量栄養素の状態については、バイオマーカーの平均濃度を算出し、食事グループ間で比較した。ヨーロッパ、南・東アジア、北米を中心とした141の研究が含まれた。
- タンパク質の摂取量は、肉食の人に比べて植物性の食事をしている人の方が少なかったが、推奨摂取量の範囲内であった。
- 食物繊維、多価不飽和脂肪酸、葉酸、ビタミンC、ビタミンE、マグネシウムの摂取量が多い一方で、EPAおよびDHAの摂取量は、ベジタリアンやビーガンの方が肉食の人と比較して少なかった。
- ビタミンB12、ビタミンD、鉄、亜鉛、ヨウ素、カルシウム、骨代謝マーカーの摂取量と状態は、肉食者と比較して植物由来の食事パターンで全般的に低かった。
- 菜食主義者は、ビタミンB12、カルシウム、ヨウ素の摂取量が最も少なく、またヨウ素の状態も低く、骨密度も低いことがわかった。
- 肉食者は、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、α-リノレン酸、葉酸、ビタミンD、E、カルシウム、マグネシウムの摂取量が不十分であるリスクがあった。
- 菜食主義者、ベジタリアン、肉食を含むすべての食事パターンにおいて、栄養素の不足が見られた。
結論
植物ベースの食事は一般的に健康と環境に良いので、公衆衛生戦略は、消費者教育、食品強化、場合によってはサプリメントを通じて、より多様な栄養密度の高い植物性食品を用いたバランスのとれた食事への移行を促進する必要がある。
結果を見ていくと、植物性の食事をしている人で最も懸念される「タンパク質の摂取量」については、推奨量を満たしており問題は無さそうです。ただ、運動をしている人や運動した日のタンパク質については少し強化を加える意識があった方が良いと思われます。
植物性食品は脂質が少ないため、EPA/DHA、いわゆる良質な油は少なくなります。このため、植物食ベースといえども魚は追加で摂取した方が良いと言えるでしょう。前述のタンパク質の懸念も余裕でクリアする事にも繋がります。
“ビタミンB12、ビタミンD、鉄、亜鉛、ヨウ素、カルシウム、骨代謝マーカーの摂取量と状態は、肉食者と比較して植物由来の食事パターンで全般的に低かった。”とあるように、色々と不足が起き、骨の状態には悪い影響がありそうです。
一方で、肉食者は、“食物繊維、多価不飽和脂肪酸、α-リノレン酸、葉酸、ビタミンD、E、カルシウム、マグネシウムの摂取量が不十分であるリスクがあった。”とあるため、海藻類などを含めた野菜の積極的な摂取が求められます。
まとめ
肉食も植物ベース食もどちらもそれぞれに不足する栄養素があることが分かりました。
シンプルに「偏った食事は良くないよ」と言い換える事が出来るでしょう。
こうしてみると、魚も野菜もたくさん食べて、それなりに洋食文化も取り入れている現代の日本人の食事は、塩分量を除けば、かなり良いバランスで構成されていると言えると考えられます。
日本人や多くの先進国の人々は、環境保護にかまけて過剰な菜食主義等に走ったりせず、肉も魚も野菜海藻も色々食べるようにしていれば、健康を害する事はありません。そのうえで、完全栄養食のような食品を開発・生産し、栄養摂取がままならない国や地域へ提供していく事が大事かなと思われます。
参考文献
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パーソナルトレーナー 井上大輔
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