高齢者が筋トレしない理由と参加への提案

筋力トレーニングの重要でポジティブな利点は専門家にはよく知られていますが、一般集団全体での参加と継続は依然として低いままです。
日本におけるフィットネス参加率は2018年で3.33%で、2014年の3.3%からほぼ変わっていません。更にこの参加者がスタジオや有酸素運動などに分散するため、純粋に筋力トレーニングに励む人は更に少なくなります。ちなみに2018年の米国のフィットネス参加率は20.3%、カナダ15.5%、英国14.8%、ブラジル4.6%などで、日本は参加率は低い方です。
特に高齢の世代ほど筋力トレーニングを行っていない傾向が高いかもしれません。実際、私がフィットネスクラブで働いていた時、有酸素運動エリア、スタジオ、プールは高齢者の参加者が多いですが、筋力トレーニングエリアでは20~50代の参加者が多く、高齢者の比率は圧倒的に低いと感じました。
米国やオーストラリアでは、推奨されるレジスタンストレーニングのレベルに参加している高齢者の数は、1~16%の範囲であると報告されています。これらの数値はアンケートによる自己申告であるため、特にガイドラインを知らない可能性のある人や、どのような活動が自分の要求を満たすのか分からない人は、筋力推奨値を満たしている人数がさらに低くなる可能性があります。
高齢者が筋力トレーニングを実施しな理由
- 健康で地域在住の有酸素運動をしている高齢者は、運動強化のためのガイドラインがあることを知らない。
- 筋力強化の推奨を十分に理解していない。
- どのような種類の活動が筋力を増強するのかが分からない。
- 週2回の筋力アップの目安に、ゆったりとしたウォーキングをカウントしている人が多い(誤解している)。
こういった様々な理由があり、高齢者が筋力トレーニングを実施していないと考えられます。
しかし、高齢者では、早歩きでさえ、短期的にはわずかな筋力増加しかもたらさない。したがって、地域在住の高齢者において、ウォーキングが筋力を増強し、筋力ガイドラインの達成に貢献するという考えは、払拭されなければならない誤解です。
ウォーキングに加えて、ヨガとピラティスでは、早ければ4~6週間で筋力増加の停滞が見られるため、筋力向上プログラムにこれらを加える事は適切ではないといえます。
適切ではない筋力トレーニングの実施
高齢者の中には筋力トレーニングを行っている人も居ますが、定期的に行っているのは限られています(例えば毎週2~3回を継続している)。また、それほど強い強度や量の実施が出来ていない人は更に限られています。
筋力トレーニングの強度・量・頻度は筋力レベルを維持向上させるのに必要な要素ですが、多くの高齢者では(青年~中高年層もですが)これが達成されていません。
例えば、オーストラリアの成人の17%が筋力トレーニングに参加していると報告したが、エビデンスに基づく強度でトレーニングを実施しているのは2%未満ということがわかりました。
筋力ガイドラインへの参加や継続を行っているといっても、その人が必ずしも最適な、あるいは適切なレベルの筋力を有するとは限らない事になります。理想的には、高齢者がプログラム開始後4~6週間を過ぎても確実に筋力を増強できるように、自己申告、筋力プログラミング、教育とともに、繰り返し客観的に測定していく事が必要です。
筋力トレーニング参加への動機づけと障壁
- 集団による運動が可能であることが高齢者の筋力トレーニングへの参加に対する主要な動機付けであることが示されている。
- 施設の利用可能性と並んで、施設の快適性も参加の動機付けとして言及されている。
- 社会的な利点・繋がりは、身体活動への参加だけでなく、特に筋力トレーニングへの最も効果的な動機付けの1つとして挙げられる。
- 参加者は、筋力クラスへの参加を選択する際に、クラスの参加者の年齢と能力が近いマッチングを好むことを示した。
これらのことから、高齢者の筋力トレーニング参加を動機づけるには、年齢と体力レベルが近い人とグループを作らせ、実施させるのが良い方法だと分かります。世代・体力レベルが近い人には親近感が湧き、社会的に繋がる事で継続的な参加が強化される事になります。
一方で、集団でのトレーニング実施になれば、個別のプログラムによる筋力向上の獲得が弱まる可能性があるため、運動強度の管理には注意が必要です。
エビデンスに基づいたトレーニングをする機会を得た高齢者は、他の形態の強化運動を「時間がかかり、費用がかかり、不十分」であると報告しています。実際、エビデンスに基づく処方を受けずに、つまり低い強度でトレーニングを行うと、高齢者はトレーニングに不満を持ち、筋力トレーニングは常に楽しくなく、退屈で、役に立たない運動形態であるという認識を持つようになります。
高齢者は一般的に低い努力強度を選択することが知られており、地域社会では、高齢者はしばしば慎重すぎる運動専門家と一緒にいることがあります。例えば、地域または老人ホーム等で行われる体操教室のようなものが挙げられます。
エビデンスに基づく強度での筋力トレーニングを実施し、実際の筋力や筋肥大・筋持久力の向上効果を体感してもらう事が重要です。これが動機づけの一因となります。
エビデンスを総合すると、高齢者集団において、より効率的な結果、より高い満足度、そしてより良い長期継続をもたらすため、筋力トレーニングプログラムに「中程度以上の」強度の指導を取り入れることを支持します。
今後の筋力トレーニングプログラムへの提案
高齢者は、努力の強度が高く、能力に応じた強度のクラスでは、強度の低いクラスと比較して、継続率が高くなります。しかし、これには、高齢者が適切な運動技術を守っていることを確認する必要があり、これを見抜くことが出来る適切に訓練された運動専門家による監督が必要です。
監督された、エビデンスに基づく、漸進的な筋力トレーニングに取り組むことで、短期的な利益が保証され、怪我の恐れやリスクが減少し、最終的に筋力トレーニングを長期的に継続する可能性が高まります。
- 筋力トレーニングは中高強度(>60%1RM)に保つべきである
- 高強度の筋力トレーニングは低強度よりも筋力とパフォーマンスの向上に有効。
- 3日/週のレジスタンストレーニングのプログラムを推奨。
- 各動作について8~12回の反復で2~3セット行う。
- Bordeらは、健康な高齢者において、50~53週間の筋力トレーニングは、6~9週間の筋力トレーニングよりも筋力向上に効果的であることを観察した。
具体的なトレーニング強度や量は、過去ブログ『筋肉と体力が少ない高齢者に対する筋トレの効果』をご覧ください。
まとめ
身体活動、それも筋力トレーニングに対する有効性と障壁は知られていますが、高齢者は筋力強化のガイドラインとその推奨事項を満たす方法を知らないままです。
運動指導の専門家(トレーナー)は、高齢者のトレーニング参加への障害を個別に調査・認識し、どうすればモチベーションが向上するか・下がるのかを知っておく必要があります。
高齢者は、今、自身が行っているトレーニングが強度・量ともに正しいのか?を疑う必要があります。ほとんどの人が強度が低く、量が不十分だという事を認識しなければなりません。不適切な場合は、相応のトレーニングが実施できる施設を利用すべきです。また、分からない場合はトレーナーを付けてみるのも一つの手段です。
世界の中でも日本は高齢者社会の先頭を走る国なので、既にわかっているエビデンスから、高齢者が自立した生活および健康を手に入れるための運動を実践していく事が必要です。なぜなら、自身の自由な行動を獲得するのはもちろん、残された家族の自由を確保する事にも繋がるからです。それとも介護してもらうことで家族の負担を増やしますか?または介護してもらう人を雇う経済的負担を負いますか?
筋力トレーニングは安全で確実に効果を得られる手段なのです。
参考文献
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パーソナルトレーナー 井上大輔
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