サルコペニアの予防と改善のための運動と栄養
『サルコペニア』という問題がここ10年ほど、活発に議論と研究がなされています。
今回は、サルコペニアがどんなものか説明した後、その予防や対策方法を紹介します。サルコペニアの対策を知っていれば将来の不安を和らげることができるのではないかと考えています。※まだ”コレだ!”という明確な方法は見つかっていないので現在わかっている中での紹介です。
サルコペニアとは
まず、サルコペニアの見た目の特徴を誤解を恐れず、一般の方にもわかりやすく簡単に説明すると『筋肉が無いとハッキリわかるほど細く、歩行速度が遅く、虚弱に見える』といった感じです。以下、詳しく述べていきます。
”サルコペニアとは、身体障害、生活の質の低下、死亡などの有害な結果をもたらすリスクを伴う、進行性かつ全身性の骨格筋量・筋力・筋パフォーマンスの低下を特徴とする症候群である。”とされています。(1)
サルコペニアの診断基準をまとめると以下の通りです。
- 低筋肉量
- 筋力の低下
- 低い身体能力
筋力は筋肉量だけに依存するわけではなく、筋力と筋肉量の関係は直線的ではありません。したがって、サルコペニアを筋肉量のみで定義するのは狭量であり、臨床的価値が低い可能性があります。
【サルコペニアの発症メカニズム】
サルコペニアの発症と進行には、いくつかのメカニズムが関与しています。これらのメカニズムは、特にタンパク質合成、タンパク質分解、神経筋の完全性、筋脂肪量に関係します。
- 不活動
- 加齢
- 内分泌
- 神経変性疾患
- 栄養不良
上記はサルコペニア発症要因の代表的なもです。一つだけではなく複数が重なって生じます。
先に挙げた診断基準項目のうち満たす項目の数で以下のような段階分けがなされます。
- プレサルコペニア
- サルコペニア
- severeサルコペニア
プレは筋肉量低下だけ、サルコペニアは筋肉量ともう一つ、severe(重度)は全てを満たす場合です。サルコペニアの段階を認識することは、治療法の選択と適切な回復目標の設定に役立つ可能性があります。
レジスタンストレーニング(筋トレ)の効果
ここまでで、サルコペニアがどんな症状なのかイメージはついたかと思います。対策として運動と栄養が必要になります。まずは運動面、特に重要なレジスタンストレーニング(筋トレ)についていくつか研究を見ていきます。
16週間の自重ベースおよび弾性バンドによるレジスタンストレーニングは、サルコペニアを有する高齢女性の機能的体力と筋肉の質を改善した。自重ベースのトレーニングと弾性バンドによるレジスタンストレーニングは、筋肉の機能と質に対する加齢に伴う悪影響を最小限に抑え、サルコペニア予防のための代替的かつ実用的な方法となり得る。(2)
サルコペニアを有する65歳以上の高齢女性は自重トレーニングと弾性バンド(ゴムチューブ)を使って身体機能と筋肉の質が向上したということです。自重トレーニングとゴムチューブを使って予防も図れそうです。
75歳以上の超高齢者でもレジスタンストレーニングのプログラムに参加することで筋力と筋肉の大きさを増加させることができることがわかった。高齢者でも筋力アップに効果的なのはレジスタンストレーニングであることがわかった。(3)
これはサルコペニアに対する筋トレの効果ではありませんが、75歳以上でもトレーニングをすることで筋力と筋肉量を増加させることを示した研究です。サルコペニアの発症はほとんど高齢者ですから、この研究結果もある程度参考にはなりそうです。
サルコペニアの高齢者において、膝伸展筋力と歩行速度はレジスタンストレーニングとレジスタンス+有酸素トレーニングによって改善することができたが、全身振動トレーニングWBVTでは改善しなかった。3つのトレーニングモードはすべてTUGタイムを改善したが、椅子起ちタイムは改善しなかった。(4)
つまり『筋力トレーニング』と『筋トレ+有酸素運動+バランストレーニング』は膝伸展力と歩行速度とTUGテスト改善させたということです。
対照的にWBVTは全身を振動させるマシン(要はパワープレート)のことで、これについては別の研究で高齢者でなくても効果は出ていないので当然と言えば当然の結果かなと思います。(関連記事参照)
最後にもう一つ↓
運動介入はサルコペニアの高齢者の筋機能と身体能力を効果的に改善することができるが、上肢の筋肉量に対する効果は限定的であることを示唆している。さらに、高齢者のサルコペニアの予防と治療において、グループベースおよび監督下のレジスタンストレーニングや多成分運動の適用が強く推奨される。(5)
これで、運動介入によって握力、膝伸展力 、下肢の筋肉量 、歩行速度 、機能的移動度が著しく向上できることがわかりました。加えて監督下での筋力トレーニングや日常生活に即した運動を推奨しています。医療機関では理学療法士、民間ではパーソナルトレーナーの指導を受けることになると思います。
ここまで幾つかのトレーニングとサルコペニアに関する研究を確認しましたが、特に身体パフォーマンスに対するメリットが多く見られました。
栄養戦略
さて、これまでみてきた研究は、筋肉量に関しては有意な効果があるものとそうではないものがありました。これは”栄養”の部分が考慮されていないからだと思われます。なので、ここでは栄養に関する文献も確認してみましょう。
ロイシンの補給は、高齢者の体重、体格指数、除脂肪体重に有益な効果を発揮することがわかったが、筋力には効果がないことが結論づけられた。(6)
このように、筋肉をつけたい人たちにとってロイシンは人気のサプリメントですが、サルコペニアを有する高齢者にも効果があるようです。筋力には効果がありませんが、筋力トレーニングと並行すれば問題なさそうです。
ビタミンDの補給は、地域在住の高齢者におけるサルコペニア指数を改善せず、身体能力のいくつかの側面を損なう可能性があった。今後、高齢者におけるビタミンD補給が、運動能力やバランスなど、SPPBの個々の指標に与える影響を調査することが必要である。
一方で、ビタミンDは筋力を高めると言われていますが、高齢者のサルコペニアに対しては効果がないようです。
その他、レジスタンストレーニング中の”クレアチン”の身体組成、筋力、身体機能に対するプラスの効果が確認されています(7,8)。クレアチンは、間接的に作業能力を高めることで筋肉量と筋力の増加を助け、クレアチン補給とレジスタンストレーニングの組み合わせは、筋タンパク質合成を促進します。よって、クレアチンの補給により日常生活の活動量が増えた可能性もあります。
ロイシンやクレアチンはアスリートもよく使うほどパフォーマンス向上に役立つサプリメントとして知られていますが、サルコペニアの人にも効果が期待できるようです。一般の人と同様、トレーニングと充分な栄養にロイシンとクレアチンを加えると、筋肥大や筋力向上が狙えるのではないかと考えられます。
まとめ
サルコペニアはここ数年で研究が活発になっている分野で、まだハッキリと分かっていない部分も多いです。しかし、現在発表されている文献を見る限り、トレーニングも筋肥大もアスリートと同じ考え方でサルコペニアの人にも転用するのが基本になりそうです。
すなわち、予防・改善のために十分なカロリーとタンパク質を摂りましょう。3食だけではなく間食も含めて目標栄養摂取量を達成しましょう。
筋力トレーニングも並行して取り組みましょう。高齢者は週3回以上を推奨します。トレーニングの半〜1日前にクレアチン5gを摂取すると良いと思われます。また、トレーニング直後にはロイシン3g,もしくはロイシンを含む必須アミノ酸12-15gを摂りましょう。
一例として、私が指導した1人の高齢サルコペニアのケースでは、筋肥大と筋力・パフォーマンス向上は成果が得られました。しかし高齢ということもあってか約1ヶ月空いただけでかなり早いスピードで筋肉量の低下が見られました。仕事や風邪をひいたなどのイベントでトレーニング期間が空いてしまう点も考慮して仕組みを検討しなければと感じました。
健康寿命の延伸や術後の早期回復のためにサルコペニアの予防と改善は必要なテーマだと思いますので、引き続き発表される研究を追っていきたいと思います。
参考文献
(1).Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis
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パーソナルトレーナー 井上大輔
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