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  • 2022.08.29

腸内細菌にとって最も重要な栄養素-水溶性食物繊維

食事パターンは、人間の健康と密接に関係しています。

賢明な食事は健康的で、野菜、果物、豆類、全粒穀物、魚、鶏肉を多く摂取することが特徴であると考えられています。これは「和食」をイメージして頂くと分かりやすいと思います。なので、日本人は健康寿命も平均寿命も長いため、賢明な食事は健康に繋がる可能性があると言えます。

一方、賢明な食事に比べ、西洋の食事は豊富な赤肉、脂肪、精製された炭水化物を特徴としています。したがって、西洋式食事は非伝染性疾患、特に消化器系疾患や代謝性疾患のリスク上昇に寄与しており、これらは部分的に西洋式食事における“食物繊維の欠乏に起因している”と考えられます。

食物繊維の定義

米国食品医薬品局(FDA)による食物繊維の定義は、「植物に内在し、そのままの形で存在する難消化性の水溶性・不溶性炭水化物、およびリグニン;FDAにより人間の健康にとって有益な生理的効果を有すると判断された分離または合成の難消化性炭水化物」としています。

また、厚生労働省は「食べ物の中に含まれ、人の消化酵素で消化することのできない物質。」と定義しています。

食物繊維は溶解度によって、不溶性または水溶性(SDFs)に分類されます。

不溶性食物繊維のほとんどは、糞便をかさ増しする効果はありますが、腸内細菌には利用されないか、利用されるのが遅いです。それに対して、水溶性食物繊維は腸内細菌によって容易かつ迅速に代謝され、その過程でヒト腸内細菌叢の存在量および多様性に有意な影響を与えます。

研究では、食物繊維、特に水溶性食物繊維が、腸内細菌叢を積極的に制御し、有益な生成物、主に短鎖脂肪酸(SCFA)に代謝され、したがって、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、憩室疾患、機能性便秘、便失禁及び大腸癌(CRC)を含む消化器疾患のリスクを低減するなど人間の健康に多くの利益を提供できることを確認されています。

今回は『水溶性食物繊維』がヒトの健康増進に寄与する腸内細菌叢への影響について要約し、皆さんの水溶性食物繊維の摂取を後押ししたいと思います。

腸内細菌叢によるSDFの利用機構

人間の体内には何兆もの微生物が生息しており,そのほとんどが細菌です。体内微生物は人間の健康に密接に関係しており,腸は彼らの最も密集した生息地です。

人体の消化酵素は、SDFを分解することができません。食品中のSDFが小腸を経て大腸に入ると、腸内細菌はSDFを異なる分解系でオリゴ糖や単糖に分解し、特定の輸送系で吸収してエネルギー源とすることができます。つまり、唾液や胃酸、胆汁などでは分解できず、腸内細菌が水溶性食物繊維を分解する役割を持っているという事です。

水溶性食物繊維(SDF)の腸内細菌叢への影響

食物繊維、特にSDFは、腸内細菌叢に主要な炭素及びエネルギー源を提供します。SDFは、有益な細菌を増加させ、腸内環境を改善することにより、プレバイオティクス効果を有する事になります。

食物から摂取するSDFやその他の多糖類の種類や量が異なる以外に、腸管上皮細胞から出る食事性・内因性のタンパク質やムチンも腸内細菌叢の栄養となります。腸管上皮は、細菌を粘膜から隔離するために粘膜層で覆われ保護されています。SDFs及び短鎖脂肪酸(SCFAs)は、粘液の産生及び分泌を刺激します。

SDFの摂取が不十分だと、プロバイオティクスの数を減らし、分岐鎖脂肪酸、アンモニア、アミン、N-ニトロソ化合物、フェノール化合物などの有害代謝物の蓄積により腸粘膜の損傷を生じさせることがあります。したがって、糖、脂肪、タンパク質が多く、繊維が少ない食事パターン(西洋食)は、炎症性腸疾患(IBD)、大腸がん(CRC)、アレルギー、心血管疾患、肥満などの慢性炎症性疾患の発症につながる可能性があります。

SDFの十分な摂取は、腸内細菌による分解から腸粘膜を保護し、これらの疾患をある程度予防することができます。

満腹感の増大とエネルギー摂取の抑制

粘性のあるSDFは、小腸で食物からデンプンやトリグリセリドなどのエネルギー性のある栄養素の加水分解と吸収を遅らせます。したがって、SDFは、グルコースおよびコレステロールと同様にエネルギーの総摂取量を著しく減少させることができるので、肥満、2型糖尿病、高脂血症および関連代謝疾患のプロセスを遅らせることに寄与します。

そして、チムは終末回腸に到達して刺激し、そこで粘膜が反応してグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)が放出されます。ヒトやブタでの実験の結果、GLP-1は胃排出を抑制し、腸の蠕動運動を低下させることが示されています。したがって、粘性のあるSDFは、食欲を制御し、インスリン感受性を改善し、体重を減らすのに有用です。

活性物質の代謝と吸収の促進

多くの粘性のあるSDFは、活性物質の代謝のための場所を提供します。

例えば、胆汁酸ですが、胆汁酸は肝臓で生産され、腸内細菌の酵素によって代謝されます。胆汁酸は食事脂肪の吸収を促進するだけでなく、健康な腸内細菌叢、脂質および糖質代謝のバランス、インスリン感受性、および自然免疫の維持に不可欠な役割を果たします。

粘性SDFは有機基質だけでなく、金属イオンなどの無機栄養塩とも結合することができます。SDFと結合した後、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛は遠位結腸に輸送されることが報告されています。SDFが腸内細菌によって分解されると、これらのイオンが放出され、病原体に抵抗する、腸内細菌群集の多様性を高め、感染から腸を保護するなどの特異的な効果を示します。

水溶性食物繊維の安全性

SDFは優れた健康効果を示しますが、SDFの不適切な摂取は、SDFの種類と量、および宿主の生理学的背景に依存する特定の健康被害をもたらす可能性があることを知る必要があります。

SDFの摂取量の急激な増加は、たとえ分別して摂取したとしても、腹部膨満、鼓腸、便秘、下痢、及び過敏性腸症候群などを引き起こす可能性があります。

厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、一日あたりの「食物繊維の目標量」(生活習慣病の発症予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量)は、18~64歳で男性21g以上、女性18g以上となっています。最近の報告によれば、平均摂取量は一日あたり14g前後と推定されています。したがって、野菜や海藻を意識的に摂取してちょうどいいくらいかと思われます。

食物繊維の含有量はコチラを参考にしてください。

まとめ

腸内細菌叢が人間の健康と密接に関係していることが研究により確認されています。多くの前向きコホート研究により、腸内細菌叢の多様性が、過敏性腸症候群、肥満、及び2型糖尿病など多くの慢性疾患の発生率と負の相関があることが示されています。

特定のSDFが特定の腸内細菌の増殖を促進することができるという事実を考慮すると、様々なSDFを豊富に含む食事は、健康に有益です。生食による各種SDFの合理的な組み合わせは、腸内細菌叢の改善に役立つことは間違いありません。さらに、SDFの介入に対する宿主反応は個人差があり、介入前の個人の腸内生態にかなりの程度結果が左右されることも研究で明らかにされています。

SDFは、宿主における有益な微生物群およびその増殖・代謝産物を増加させることにより、将来の健康にとって有益です。注目すべきは、食事中の不溶性繊維はいくつかの代謝性疾患(例えば、2型糖尿病)に対してより予防的であることが示されている事です。

食物繊維の摂取(とくに水溶性)は、腸内細菌にエサを与えることであり、腸内細菌達がヒトに必要な栄養を生み出し、健康をサポートしてくれることが明らかになってきています。腸内細菌の研究は難しく、まだわかっていない事が沢山ありますが、今回紹介したようないくつかの健康効果を知るだけでも十分に水溶性食物繊維を摂取する価値はあると思います。

世界的にみれば、日本人はワカメなどの海藻から水溶性食物繊維を比較的よく摂取している方だと思われます。これも長寿の要因のひとつかもしれません。日本でも最近は食事の西洋化が進んでいますが、食物繊維を沢山摂れる“和食”を基本的な軸にすると、皆さんの健康も長続きするのではないでしょうか。


参考文献

Soluble Dietary Fiber, One of the Most Important Nutrients for the Gut Microbiota

FDA

厚生労働省

日本人の食事摂取基準(2020 年版) – 厚生労働省-p.156-

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