筋肥大を効率よくする為に必要なトレーニング変数
筋肥大とは、運動により筋肉が大きくなることです。トレーニングを行う人たちの多くは筋肉を大きくして、逞しくなりたい、曲線美を作りたい、代謝を上げたい、などの想いがあることでしょう。また、筋肥大は筋力を高めるための前段階として必要であることから、筋肥大は”最も重要なトレーニング結果”といっても過言ではありません。
筋肥大という生理現象には、筋小胞体肥大(=筋グリコーゲン貯蔵量の増加)および筋原線維肥大(=筋原線維サイズおよび筋原線維数の増加)といった2つの主要な要因が寄与します。
筋力トレーニングでの、機械的ストレス、代謝ストレス、筋損傷といった3つの重要な変数が、筋量増加要因のゴールドスタンダードと考えられています。伝統的に、肥大に焦点を当てたレジスタンストレーニングは、中程度の負荷、高い総量負荷、短い休息期間を特徴としますが、筋力トレーニングプログラムの効果はその変数の操作によって異なります。
では、筋肥大を達成するためのプログラムはどの点を特に意識するのが効率的か確認しましょう。
【方法】
a) 参加者:健康で身体的に活動的な男性および/または女性の実践者。特定の年齢層(子供や高齢者)に焦点を当てた研究は除外した。
b) 介入:伝統的な材料(すなわち、フリーウェイトおよびウェイトスタックマシン)を使用したレジスタンストレーニングプログラム。
c) 比較群:通常のトレーニング(追加トレーニングなし)。
d)アウトカム指標:筋肉量、CSA、除脂肪体重、筋周径、筋厚、無脂肪量、筋繊維、筋容積。14のメタアナリシスがアンブレラレビューに含まれた。これらの研究は2009年から2020年の間に発表され、4,704人の参加者に対応する178の主要研究で構成されている。
【結果】
量、回数、強度、収縮タイプ、反復時間、血流制限の適用という変数が、健康な被験者において肥大適応を生じさせると結論づけることができる。運動順序、時間帯、ピリオダイゼーションの種類などの他の変数は、筋量増加の大きさに直接影響しないように見えるが、肥大を刺激する能力を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。
研究により赤字の変数が筋肥大を生じさせることが分かりました。それぞれ簡単に解説したいと思います。
トレーニング量
トレーニング量は、一般的に実行された仕事の総量として定義されます。
エクササイズごとの”セット×反復回数×重量=総量”、として表現することができます。この変数は、レジスタンストレーニングプログラム中に高容量を処方することで、より大きな筋肉量の増加をもたらすと従来から想定されているため、筋肥大の強化に関して非常に注目されています。
1週間あたり、4〜10セットが必要と言われています。忙しい人や体力をセーブする必要がある人なら、週2回×2セットの合計4セット。時間と体力が許すならば、週2回×5セット(週3回×3セット)などが推奨されます。
また、頻度もトレーニング量として考慮しなければならない変数といえます。トレーニングの総量の管理は通常、1週間単位で行います。脚を何セットやった、胸を何セットやった、という具合に筋群ごとに管理します。
頻度を増やすとトレーニング総量は増えるので、筋肥大の目的は達成しやすくなります。一方で、例えば、75%強度で10回10セットを週3回やるといったように、莫大なストレスをかけ続けるとパフォーマンスが急速に低下し、オーバートレーニングのリスクが高まることが観察されています。オーバートレーニングになるとトレーニングの恩恵が受けれないどころか、体調も崩すのでトータルでマイナスです。従って、多量のトレーニングの週を実施した場合、翌週は少量に設定するといった調整が必要になります。
トレーニング計画への理解度が深くないうちは、トレーニング頻度を週2,3程度に固定化するのが良いでしょう。
強度
1RMの各パーセントは、異なるエネルギーシステムと疲労レベルに関連し、肥大反応の程度に影響を及ぼします。伝統的に以下のように分類されます。
- 低(<30% 1RM、20回以上)
- 中(30-70% 1RM、12-20回)
- 高(>70% 1RM、12回以下)
伝統的に、適度な反復回数で高負荷を使用するトレーニング (75〜80% 1RM, 8-10回) は、筋肥大を最適化する重要な戦略として考えられており、軸となる強度・回数です。また、低負荷でもかなりの回数をこなせば肥大反応が起こるとも確認されています。従って、80%あたりから始め、4,5セット目には70%や65%くらいの負荷に軽減させ回数を担保するというやり方でも筋肥大は達成できます。
収縮のタイプ
収縮のタイプは大きく3つあります。コンセントリック、エキセントリック、アイソメトリックです。これらは聞き馴染みがないと思うので簡単に解説します。
- コンセントリック:重りを持ち上げる時
- エキセントリック:重りを下ろす時
- アイソメトリック:重りを中間地点で維持している状態
簡単な覚え方はこれです。細かいメカニズムは割愛しますが、この中で”最も筋肥大反応が得られるのはエキセントリック収縮”です。
アイソメトリックはちょっと特殊なので無視してOKです。
これを普段のトレーニングに当てはめて考えると、バーベルやダンベルを下ろす時はゆっくり下ろす意識が大事です。ジムで観察していると、持ち上げる局面は頑張っているが、下ろす時は重力に任せてストンと下ろす人がほとんどです。これでは一番効果のあるエキセントリック収縮を捨てているのと同じで、トレーニング効果を半減させているとも言えます。
持ち上げる局面は頑張って上げる、下ろす時はジワっとゆっくり下ろすようにしましょう。
反復時間
上げ下げに何秒かけるのがいいかという問題です。
0.5秒から8秒までの反復持続時間でトレーニングした場合、肥大の向上が観察されました。上げるのは一瞬で上げる、下げるのは3秒くらいかけて上げる意識で良いでしょう。なぜなら、一瞬で持ち上げようとしても、実際はかなりの重さを感じるので、側から見ればゆっくりな動きになる(1-2秒かかる)からです。これに下げ局面3秒を加えると、1回の反復で4-5秒くらいはかかります。
一方で、非常に遅い持続時間(1回10秒)でのトレーニングは、肥大の観点からは劣ることも観察されました。
実用的な観点から、肥大を刺激するために幅広い反復持続時間を使用することができますが、非常に遅い反復(約10秒)は避けた方が良いでしょう。
血流制限(加圧トレーニング)
加圧トレーニングも筋肥大には効果があります。
しかし、一般的な筋力トレーニングで十分な肥大効果が得られるため、わざわざ加圧する必要は無いと言えます。トレーニング効果としても一般的な筋トレを上回るわけでもなく、加圧実施中の血圧が高くなることを加味すると優先度は低いです。
一方で、低圧での血流制限はより快適で身体的負担が少ないと認識され、身体的ストレスに対する耐性が低い個人(ケガからのリハビリや体力レベルの低い高血圧ではない高齢者)では特に有用である可能性はあります。
まとめ
以上、メタアナリシスにより、健常者において、量、回数、強度、収縮タイプ、反復時間、血流制限の適用が筋肥大適応を調整することが確認されました。量は筋肥大適応と用量反応関係が観察された唯一のレジスタンストレーニング変数でした。逆に、運動順序、時間帯、ピリオダイゼーションの種類などの他の変数は、筋量増加の大きさに直接影響を与えないことが分かりました。
これらの知見は、筋肥大を最適化することを目的とした筋力トレーニングプログラムの設計および構成に有益な情報を提供するでしょう。
ご自身の体力やスケジュールの中で、可能範囲『トレーニング量』を増やすことを提案します。トレーニング量は回数・取り扱う重さ・セット数の総量だと考えましょう。掛け算してどの組み合わせが一番数字が大きくなるかを調べてみると良いと思います。
参考文献
Resistance Training Variables for Optimization of Muscle Hypertrophy: An Umbrella Review
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パーソナルトレーナー 井上大輔
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