全身vs部位別 脂肪が落ちるのはどっち?
筋肥大を高めるための筋トレ戦略のバリエーションには大きな進歩が見られますが、脂肪量減少への影響に関する筋トレについては限られた研究しかありません。
特定の筋群を週1回トレーニングするスプリットボディルーティンは、全身ルーティンと比較して、上級者においては筋肥大の獲得を最適化する目的で行われます。
今回は、全身筋トレと部位別の筋トレ、どちらが脂肪を沢山落とせるのかについて、最新の研究を交えて解説します。
さらに加えて、両トレーニングを比較して、筋肉痛に対しての評価も検討したいと思います。
筋肉痛を考慮することで、中長期的にみた時のトレーニング効率を加味して、脂肪を落とすプログラムはどちらが良いか?を決定することができます。
過去の研究
クラウザーら(2016)による過去の研究では、筋力トレーニングを受けたラグビー選手(平均年齢29.8歳)の筋力、体組成、ホルモンの適応を促進するための2つの等量トレーニングプロトコルの有効性が比較されました。
24名の男性を12名ずつに分け、ランダム化比較試験が実施されました。
週3回の全身トレーニングか部位別トレーニングが処方されました。
その結果、どちらのトレーニングも筋肉量の増加と脂肪の減少を達成しました。
全身はスプリットに比べて、脂肪量減少において優れた改善をもたらすことが示されました。
これは、1回のトレーニングで、全身トレーニングはより多くの筋群を活性化させたためと考えられます。
この研究の限界点は、脂肪量の測定がキャリパーによって行われた点です。
ここで脂肪量の変化に誤差が生じている可能性があります。
同じトレーニング量の形式を用いたプログラムを検討した研究では、脂肪の同程度の減少[10、12]が報告されています。
この過去2つの研究の限界点は、被験者がトレーニング初心者であることでした。
この限界点を拡張する点において、クラウザーらの研究でトレーニング経験者が使われました。
最新の研究
これらを踏まえて最新の研究を見てみたいと思います。
2024年6月に欧州スポーツ科学ジャーナルに掲載されました、
訓練された男性における、全身トレーニングとスプリットトレーニングの比較:10週間のランダム化比較試験です。
23名の被験者、平均年齢は25から28歳、トレーニング経験は6から7年です。
全身11名、スプリット12名に分けられました。
今回の測定方法はデクサを用いて行われました。これでかなり正確なデータを取ることができます。
食事は、スポーツ栄養の専門家による通常の食事療法に従うように勧められました。
充分なタンパク質摂取を確保するために、24gのタンパク質と6.4gの炭水化物を含むホエイプロテインサプリメントがすべての被験者に提供されました。
遅発性筋肉痛の評価も行われました。
トレーニングについて
全身群は、月曜日から金曜日までの5日間、2セット(ベンチプレス、シーテッドロー、ハムストリングカール、カーフレイズ、腰椎屈筋・伸筋)と1セット(レッグプレス、バックスクワット、バーベルカール、肘伸筋、ラテラルレイズ)のルーチンを行いました。
スプリット群は、パーツによってトレーニングを分割して実施しました
月曜日はベンチプレスと肘伸筋、火曜日はレッグプレスとバックスクワット、水曜日はシーテッドローとバーベルカール、木曜日はハムストリングカールとカーフレイズ、金曜日はラテラルレイズ、腰椎屈筋と伸筋。
各セッションにおいて、スプリット群は1エクササイズにつき10セットを実施しました(ただし、肘関節伸展筋、バーベル・カール、ラテラル・レイズ、スクワット、レッグ・プレスは5セット)。
このように、全身群は各セッションで11種目すべてを行ったのに対し、スプリット群は、各セッションで2種目を行いました。
結果
食事摂取量に群間差はありませんでした。
また、全身・スプリットのトレーニング遵守率はそれぞれ98%および97%でした。
脂肪量の減少については、全身ルーティンは、スプリットルーティンに比べて、より有意な脂肪量の減少をもたらし、2つのアプローチに差があることを示しています。
全身トレーニング量(8週間の全RT量の合計)については、全身群はスプリット群より16%多いことが観察されました。
各ルーティンで行われたすべてのウォームアップセットを含めると、全身群(615,652±76,591kg)がスプリット群(394,552±52,150kg)よりも有利であり、全身トレーニング量の優位性を示す、平均221,100kgの有意な差が認められました。
また、遅発性筋肉痛の全体的なレベルは、全身群と比較して、スプリット群の方が高いことも観察されました。
興味深いのは、全身トレーニング量プラスすべてのウォームアップセットでは、脂肪量減少との相関を示さなかった点、
逆に、筋肉痛レベルの低さと脂肪量の減少が相関していました。
考察
この研究の主な知見は、全身プロトコルは、スプリットルーティンと比較して、全身および部位脂肪の減少が大きいことを示しています。
つまり、部分痩せのために特定の筋肉(単関節運動)を実施するのは非効率・ナンセンスである可能性が高いともいえます。
加えて、全身ルーティンでは、筋肉痛のレベルがより低いことが観察されました。
注目すべきは、全身トレーニング量が大きいほど、よくトレーニングされた男性の脂肪量減少を促進するという明確な相関は見られなかったことです。
逆に、筋肉痛のレベルは脂肪量減少のより信頼性の高い予測因子として浮上し、脂肪量のすべての指標の変化と正の相関を示しました。(表4参照)。
このことは、トレーニング総量以外の要因が、脂肪量減少に寄与していることを示唆しています。
筋肉痛が強いと、トレーニングのパフォーマンスに影響するだけではなく、日常生活での活動量も減少します。
無意識のうちに活動量が低下してしまう可能性が高いという仮説が、過去のいくつかの研究により提唱されています。(ACSM2009)
トレーニングだけではなく、このような小さな活動量低下の積み重ねが、数週間、数ヶ月単位で見ればチリツモとなり、脂肪の減少に大きな差が生まれたと考えられます。
したがって、今回の結果、並びに過去の研究は、筋肉痛レベルが低い全身トレーニングが、よくトレーニングされた男性の脂肪量減少に、より効果的である可能性を示唆しています。
この戦略は、筋肉のコンテスト(特にフィジーク)を志す人や、ダイエットをするために筋トレを選択した人にとっては特に適切であると考えられます。
今回の研究では、筋肉量の測定にデクサを使用したため、正確な筋肉量の変化を捉えた点が特に優れています。
また、専門家による食事モニタリングの厳密性と、トレーニング監視による遵守率の高さが研究の信頼性を高めています。
研究の弱点としては、よくトレーニングされた男性を対象としているため、参加者数の少なさが統計解析に支障をきたした可能性があります。(1人の変化が全体に与える影響が大きい)
さらに、エネルギー消費量と身体活動量の評価はありませんでした。
最後に、ウォーミングアップのセット数がグループ間で不均等であったため、全身のグループの運動総量が多くなった点です。
今後、これらの弱点を埋める研究が行われるのを期待しましょう。
まとめ
結論として、この最新の研究で、よく訓練された男性において、全身トレーニングは、スプリットルーティンと比較して、全身脂肪量および局所脂肪量の両方を減少させるのに効果的であるという証拠を提供しました。
これらの知見は、よくトレーニングされた男性の脂肪量減少を促進するためのプログラムとして考慮され、推奨されるべきであると考えます。
参考文献
全身抵抗トレーニングは、よく訓練された男性のスプリットボディルーチンよりも大きな脂肪量の損失を促進します:ランダム化試験
男性ラグビーユニオン選手の筋力、体組成、唾液ホルモンに対する2つの等量トレーニングプロトコルの影響
トレーニング量と強度が等しい9週間の周期化モデルの比較(10)
最大強度、持久力、体組成に対する異なるトレーニング頻度で8週間の同量レジスタンストレーニングの効果(12)
経験豊富な被験者における週1日と週3日の等量抵抗トレーニングの比較(20)
健康な成人のためのレジスタンストレーニングにおける進行モデル
有意水準と有意差とp値とは?5%の意味や決め方・求め方をわかりやすく簡単に
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