空腹時の運動は痩せる?筋肉は落ちる?脂肪燃焼をエビデンスで解説
「痩せるためには朝食前に走ったほうがいい」 「空腹で筋トレをすると筋肉が分解されてしまう」
フィットネスやダイエットに取り組んでいると、一度はこのような噂を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
早朝のランニングや、仕事終わりの夕食前のトレーニング。ライフスタイルは人それぞれですが、果たして**「食事のタイミング」はダイエットや筋肉作りにどれほど影響するのでしょうか?**
今回は、個人の経験則や根性論ではなく、信頼性の高い**最新の科学的エビデンス(論文)**に基づき、空腹時の運動のメリット・デメリットについて徹底解説します。
結論:痩せる量は「タイミング」では変わらない
まず、多くの人が最も気になる結論からお伝えします。
「空腹時に運動しても、食事の後に運動しても、長期的な体脂肪の減少量に違いはない」
これが現在の科学的なコンセンサスです。
「空腹時の方が脂肪が燃えやすい」という話は、理論的には間違いではありませんが、「脂肪が燃える(酸化される)」ことと「体脂肪が減って痩せる」ことはイコールではないのです。
詳しく解説していきましょう。
エビデンス①:脂肪燃焼効率とダイエット効果の真実
空腹時の有酸素運動(ファステッド・カルディオ)に関する非常に信頼性の高い研究があります。
Hackett & Hagstrom (2017) によるシステマティックレビューとメタアナリシス(※)です。 ※メタアナリシス:複数の研究結果を統合して解析する、最も信頼性が高いとされる研究手法。
この研究では、一晩絶食した状態(朝食前)での運動と、食事を摂った後(食後)の運動を比較しました。
研究結果
-
運動中の脂肪利用率: 確かに空腹時の方が高い。
-
長期的な体重・体脂肪の変化: 両グループに有意な差は見られなかった。
なぜ差が出ないのか?
人間の身体にはホメオスタシス(恒常性)という機能があります。空腹時の運動で一時的に脂肪が多く使われたとしても、その後の時間帯で身体が脂肪の分解を抑制したり、糖質の利用を優先したりしてバランスを取ろうとします。
また、Schoenfeld et al. (2014) が行ったランダム化比較試験(RCT)でも、食事制限下において「空腹時」と「食後」どちらのグループも同じだけ体重と体脂肪が減少したことが報告されています。
つまり、「いつ走るか」よりも「1日の総摂取カロリーと消費カロリーのバランス」が圧倒的に重要だということです。
参照論文:
エビデンス②:空腹で運動すると「筋肉」は落ちる?
「空腹で動くと、エネルギー不足で筋肉が分解されるのでは?」という不安を持つ方も多いでしょう。
これについても、軽い有酸素運動程度であれば、神経質になるほど筋肉が激減するリスクは低いと言えます。先述の研究でも、除脂肪量(筋肉など)の減少に大きな差は見られませんでした。
ただし、「筋トレ(レジスタンストレーニング)」で筋肉を大きくしたい場合は話が別です。
筋肥大・筋力アップには「食事」が必要
筋肉を効率よく成長させるには、トレーニング中に十分なエネルギーと、血中のアミノ酸濃度が必要です。
完全にエネルギーが枯渇した状態でハードな筋トレを行うと、身体は筋肉(タンパク質)を分解してエネルギーを作り出そうとする「糖新生」を活発化させる可能性があります。
筋肉を守り、育てたいのであれば、トレーニングの1〜2時間前に炭水化物とタンパク質を含んだ食事を摂るのがベストです。どうしても時間がなく空腹でトレーニングする場合は、BCAAやEAAなどのアミノ酸サプリメントを活用して、血中のアミノ酸濃度を維持することをお勧めします。
エビデンス③:パフォーマンスへの影響
「痩せる・痩せない」だけでなく、「しっかり動けるか(パフォーマンス)」の視点も重要です。
Aird et al. (2018) のシステマティックレビューによると、運動時間と強度によって推奨が変わります。
1. 60分未満の軽い運動
ウォーキングや軽いジョギング程度であれば、空腹時でもパフォーマンスへの悪影響はほとんどありません。
2. 60分以上の運動・高強度のトレーニング
ここが重要なポイントです。長時間の有酸素運動や、息が上がるような高強度のトレーニングを行う場合、運動前に食事を摂った方がパフォーマンスが高いことが示されています。
エネルギー(筋グリコーゲン)が不足すると、パワーが出なくなったり、すぐにバテてしまったりします。結果としてトレーニングの質(ボリューム)が下がり、消費カロリーも減ってしまう本末転倒な結果になりかねません。
参照論文:
【まとめ】あなたにおすすめなのはどっち?
科学的エビデンスをまとめると、**「脂肪燃焼のために無理して空腹で運動する必要はない」**というのが結論です。
ご自身のライフスタイルに合わせて、続けやすい方を選んでください。
空腹時の運動(朝イチなど)が向いている人
-
朝の時間が一番確保しやすく、習慣化しやすい人。
-
満腹状態で動くとお腹が痛くなりやすい人。
-
朝、身体を動かしてスイッチを入れたい人。
-
注意点: 水分補給は必ず行いましょう。強度は「会話ができる程度」がおすすめ。
食後の運動が向いている人
-
ハードな筋トレで筋肉をつけたい人。
-
長時間(1時間以上)しっかり走りたい人。
-
空腹だとめまいや立ちくらみが起きる人。
-
トレーニングの「質」や「記録」を伸ばしたい人。
最後に
ダイエットやボディメイクにおいて最も大切なのは、**「完璧なタイミング」を探すことよりも、「継続すること」**です。
「朝食前に走らなきゃ意味がない…」とストレスを感じてやめてしまうくらいなら、夕食後に気持ちよく走る方が100倍効果的です。
当ジムでは、こうした科学的根拠に基づき、お客様一人ひとりのライフスタイルに合わせた無理のないトレーニング・食事プランをご提案しています。
「自分に合った方法が知りたい」「効率よく結果を出したい」という方は、ぜひ一度無料カウンセリングにお越しください。
関連
- Youtubeチャンネルで運動・栄養・健康について様々な情報を発信しています
- 自宅でできるトレーニングシリーズ
- 筋トレビッグ3再考
- 筋力獲得の刺激
- ストレスマネジメントにおける運動の役割
- 減量ダイエット中のオメガ3脂肪酸補給の効果
- 睡眠障害を改善するための栄養戦略
- クレアチンのニッチな効果
☆★☆★☆
パーソナルトレーナー 井上大輔
パーソナルジムIGF 日本橋駅徒歩1分
パーソナルトレーニングをご希望の方→カウンセリングはコチラ
IGFは日本橋で創業し6年の完全個室予約制のパーソナルジムです
お身体、運動、食事のお悩み、お気軽にご相談ください
主な情報仕入れ先
- PubMed/論文検索サイト
- NSCA/全米ストレングス&コンディショニング協会
- ACSM/アメリカスポーツ医学会
- BMJ sport medicine/ブリティッシュメディカルジャーナル
- Harvard Health Publishing/ハーバード・ヘルス・パブリッシング