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  • 2025.10.02

糖質制限は危険?やらない方がいい理由

低炭水化物は、急速な減量効果が報告されているため、一般および科学的関心を集めています。

日本でも一昔前に糖質制限としてブームになりました。

日本の一般的な食事では、1日の糖質摂取量が200から300グラム程度であることが多いため、糖質制限食はこれを意識的に下げるアプローチです。

多くの糖質制限食のガイドラインや研究では、1日の糖質摂取量50から130グラムの範囲が一般的に「低糖質」と定義されています。

脳の機能に必要な最低限の糖質は約130グラムだからです。

より厳しいものとして、1日の糖質摂取量20から50グラムというパターンも多いです。

過去に流行った某パーソナルジムでは、50グラム以下にする指導がなされていました。

一方で、糖質を制限することの長期的な利益に関するエビデンスは依然として限定的です。

今回は、長期的に糖質を抑えた場合の影響について、参考となる最新の研究を紹介したいと思います。

短期的な影響

長期の効果を見る前に、短期的な効果について簡単におさらいしておきます。

2025年8月のレビューでは、糖質制限は、食欲抑制、脂肪酸化の増強、インスリン感受性の改善など、複数の経路を通じて肥満に対する効果を発揮します。

臨床試験では、短期的な体重減少と血糖コントロールおよび脂質プロファイルの改善が報告されています。

現場で糖質制限を指導すると、2から3ヶ月で体重が7から10キロ落ちることも珍しくありません。

中には、コレステロール値や血糖値が正常化して(その時は)データ上、健康に映ります。

しかし、長期的な順守性、心血管リスク、腎臓への負担増加、腸内細菌の変化に関する懸念が残っています。

また、ジムを卒業した後の予後については不明であることが多く、半年や1年経過した後に戻ってくる人もいます。

そして、その後の糖質制限は前回行ったものと同じような効果が出ないことがほとんどです。

このように、長期的な利益については議論があり、エビデンスは限定的かつ不均一です。

次に、長期的に糖質を制限した際の変化について参考になる研究を確認してみましょう。

長期的な影響

糖質制限は、高脂肪・高タンパクで非常に低炭水化物の食事です。

てんかんの治療に使われてきた歴史があり、発作を抑える効果が知られています。

この食事は、脂肪を主なエネルギー源として使い、ケトン体(脂肪が分解されてできる物質)を増やすことで体を「ケトーシス」という状態にします。

この研究では、糖質制限を長期間(約1年間)マウスに与えた場合の健康への影響を調べました。

なぜ人間ではないのかというと、健康への悪影響があると思われる実験をあえてヒトにやるのは倫理的に問題があるからです。

また、マウスの寿命は2〜3年なので、約1年間与えることは寿命の半分くらいを使っていることになり、人でいえば30〜40年に相当します。

マウスも哺乳類なので、基本的な反応はヒトと同じであるため、ヒトに長期間与えた場合どうなるかを知るにはある程度参考になります。

研究の概要

この研究では、4つの異なる食事を比較しました。具体的には、以下の食事です

1. LFD(低脂肪食):脂肪が10%、炭水化物が多い食事。

2. LFMP(通常食):脂肪10%、タンパク質を中程度。

3. HFD(高脂肪食):脂肪60%で、肥満を引き起こすとされる食事。

4. KD(糖質制限):脂肪89.9%、炭水化物0.1%、タンパク質中程度。

マウスはこれらの食事を自由に食べ、約1年間観察しました。

体重、血糖値、血中脂質、肝臓の健康、インスリンの働きなどを詳しく調べました。

主な結果

1. 体重への影響

糖質制限を与えたマウスは、高脂肪食を与えたマウスよりも体重増加が少なかったです。

しかし、低脂肪食や通常食のマウスに比べると体重は多く、糖質制限は肥満を完全に防ぐわけではありませんでした。

2. 血中脂質と肝臓への影響

糖質制限のマウスは、中性脂肪・遊離脂肪酸が高脂肪食のマウスよりも高くなりました。

これは、糖質制限の方がより高脂肪な食事であるため、体内に脂肪が過剰に溜まることを示しています。

特に雄マウスでは、「脂肪肝」や、肝機能の指標であるALTの上昇が見られ、肝臓のダメージが示唆されました。

一方、雌マウスでは糖質制限による脂肪肝は見られず、性別による違いが明らかになりました。

3. 血糖とインスリンの問題

糖質制限のマウスは、初期には血糖値が低く安定していましたが、長期的に見ると問題が現れました。

グルコース耐性試験では、糖質制限マウスは高脂肪食マウスと同じくらい血糖を下げるのが難しく、特に長期間ではその問題が悪化しました。

これは、インスリン分泌が低下しているためです。

通常、インスリンは血糖を下げるために必要ですが、糖質制限のマウスではインスリンが十分に出ず、血糖が高止まりしました。

したがって、短期的には血糖値が下がっても、長期的には血糖値が上がる可能性があります。

4. 膵臓の働き

インスリンを作る膵臓を調べました。

糖質制限マウスでは、インスリンを分泌する場所の大きさやインスリンの量は正常でしたが、インスリンを素早く分泌する能力が大きく損なわれていました。

この異常は、非常に多い脂肪食がストレスを与え、インスリンの生成や分泌を妨げていると考えられます。

5. 減量への効果

糖質制限は肥満のマウスに減量を促しましたが、低脂肪食や通常食の方がより多くの体重を減らす効果がありました。

糖質制限で減量したマウスは、血中の脂質が高いままだったため、代謝の健康が完全に改善されたわけではありません。

また、糖質制限をやめて高脂肪食に戻すと、体重がすぐに戻り、グルコース耐性の問題も再発しました。

しかし、糖質制限から低脂肪食に切り替えると、グルコース耐性の問題が改善し、糖質制限の悪影響が一部可逆的であることがわかりました。

現代の西洋風な食事は高脂肪食ですから、糖質制限をやったとて、食事を戻したらリバウンドする可能性が高いことを示唆しており、現場での肌感覚とも一致しています。

低脂肪食であれば糖質制限の悪影響を打ち消す可能性があり、和食ならもしかしたらリバウンドしにくいかもしれません。

まとめと今後の課題

この研究から、糖質制限は一時的に体重増加を抑え、減量を促す効果がありますが、血中の脂質を増やし、肝臓に負担をかけ、特に長期間ではインスリン分泌を損なうことがわかりました。

これにより、長期的には血糖コントロールが難しくなり、糖尿病のリスクが高まる可能性があります。

特に、糖質制限の非常に低い炭水化物量がインスリン分泌の問題を引き起こしていると考えられます。

糖質制限は肥満や糖尿病の治療としては注意が必要です。

手っ取り早く痩せるのは魅力的かもしれませんが、そのあとには健康状態の悪化が潜んでいる可能性が高く、お勧めできる方法ではありません。

実際に、糖質制限をした人がリバウンドして帰ってくる、さらにはその後の体組成改善がうまく運びにくいことを考えると、このマウスでの研究結果も納得する部分が多いです。

今後、異なるマウスや動物モデル、さらにはヒトでの研究が必要です。

また、糖質制限時の脂肪の種類(飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸)やマクロ栄養素の比率、野菜や果物など繊維質が含まれた場合に結果にどう影響するかを調べることも重要です。

現段階では、糖質制限は諸刃の剣である可能性が高いと言えるでしょう。


参考文献

ケトジェニックダイエットと肥満管理:味方か敵か?

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40879882/

長期間のケトジェニックダイエットがマウスにおいて高脂血症、肝機能障害、インスリン分泌障害による耐糖能異常を引き起こす

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12448075/

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