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  • 2022.10.30

アルコールの悪影響-心臓血管系・肝臓・傷害-

最近、すっかり冷え込んできて、冬がそこまでやってきていると感じる季節になりました。これから年末年始まで飲み会が増えるシーズンです。

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アルコールは人体にとって悪影響が多いのは周知の事実ですが、国が国民に対して飲酒を推奨するのは驚きでした。なぜ厚生労働省は国税庁に対して抗議しないのでしょうねぇ?笑

この辺の政治的な話はさておき、今回はアルコールの悪影響を簡単にまとめたいと思います。沢山あるので全部書くと長くなる為、①心臓血管系、②肝臓、③傷害の3つに分けて簡単にまとめておきます。

なお、実験でよく『アルコール60gの摂取(飲酒)』と出てきますが、これは(=アルコール5%ビール500mℓ×3本)や(≒アルコール9%ストロングゼロ350mℓ×2本)に相当します。日本酒は3合弱です。

アルコールの循環器系への影響

虚血性心疾患(IHD)

アルコール消費とIHDは、ともに高所得国で高い頻度でみられます。

1日平均60g以上の純アルコールを飲む男性におけるIHD死亡率は、生涯禁酒者のそれと同程度であることが判明しています。女性では、そのような飲酒レベルは典型的な疫学研究においてほとんど観察されません。体脂肪の分布、体格、アルコールの溶解度により、同じ量のアルコール摂取でも男性に比べ女性の方が一般的にアルコール摂取によるリスクが高いです。それにもかかわらず、しばしば非常に大量に飲酒するアルコール使用障害の男女は、IHDの最も高い死亡リスクと関連しています。

平均的なアルコール消費量とIHDとの有益な関連についてのおそらく最も説得力のある観察的証拠は、コホート約60万人の現在の飲酒者の個人参加型の分析から得られています。逆相関では,心筋梗塞(14,539イベント)において,純アルコール週100gが0超~50g未満と比較した場合のハザード比は0.94でした(缶ビール1日1本飲むのは逆に良いかもしれない)。しかし、心筋梗塞を除いて、脳卒中(HR = 1.14 )、心筋梗塞以外の冠動脈疾患(1.06)、心不全( 1.09)、致命的高血圧疾患( 1.24)に関するリスクが直線的に増加しました。

総合的に見て、1杯でも飲むのは身体にとって良くないと言えるでしょう。

高血圧症

平均的なアルコール摂取量と高血圧の発生率との関係をまとめたメタアナリシスが、過去20年間にいくつか発表されています。

特に、高血圧の発症例90,160例を対象とした20のコホート研究(男性125,907例、女性235,347例)の361,254人のメタアナリシスでは、禁酒者と比較して、男性ではアルコール摂取量のいかんにかかわらずリスクが上昇し、女性では1日24gまでならリスクの上昇は認められず、このレベルを超えるとリスクが増加しました。元飲酒者のリスクは生涯禁酒者と同程度でした。

男性では、1日当たり平均60gの飲酒(=ビール500mℓ×3本、≒ストロングゼロ350mℓ×2本)でリスクは1.68に増加しました。女性ではそのようなデータはなかった。

男性ではより有害な飲酒パターンが多いことであり、これには通常、より多くの無茶飲みのエピソードが含まれます。大量の飲酒は血圧を上昇させ、その結果、高血圧のリスクも上昇させます。

アルコール消費と血圧および高血圧の関係は、因果関係があり可逆的であると見なす必要があり、アルコール消費の減少が収縮期および拡張期血圧の低下をもたらし、臨床的に重要な効果をもたらす用量反応関係があることを示す実験証拠があります。

脳卒中

いくつかの初期および最近のメタアナリシスでは、平均アルコール摂取量と脳卒中の関連はJカーブを描くことが示されています。

3824人の脳卒中症例(男性2216人、女性1608人)を対象とした27の前向きコホート研究のメタ分析では、脳卒中のリスクは1日平均24gまでは1を下回り、12-24gでは0.92、24g以上のアルコール摂取で増加しました。 一方、Emerging Risk Factors Collaboration,EPIC-CVD,UK Biobankの各コホートの解析では、平均アルコール摂取量に基づき,致死性および非致死性全脳卒中のリスクが増加した。

脳内およびくも膜下出血のリスクは飲酒のたびに上昇し、1日あたり48gを超える飲酒では、脳内出血のリスク= 1.67およびくも膜下出血の1.82となりました。

アルコール摂取もまた脳卒中発症の引き金となる。24時間以内または1週間以内の飲酒量が多いほど、脳卒中リスクは高くなる。

心不全

虚血性心疾患、高血圧、心筋症などの心血管系疾患カテゴリーは、心不全のリスクを増加させます。3つのメタアナリシスでは、ほぼ同様の結論に達しています。

8件の研究に基づき、メタアナリシスでは、元飲酒者は生涯禁酒者と比較して不整脈のリスクが高いと結論付けています(RR = 1.22)。

アルコール関連肝疾患

アルコールを摂取する量が多いほど、飲酒期間が長いほど、肝臓の疾患(ALD)リスクが高まります。肝臓はエタノール(アルコール)代謝を担う主要な臓器であり、過度のアルコール摂取により酸化ストレス、アセトアルデヒドなどの蓄積によるより大きな組織傷害を受けます。

アルコール摂取の量と期間とALDの進行の間には明確な相関がありますが、慢性的なアルコール使用者の10-20%のみが進行性ALDに移行することから、他の共同要因(例えば、遺伝的、エピジェネティック、環境要因)もALD発症に役割を果たすと推測されます。

この段階では不可逆的な肝損傷や肝減衰が起こっていないため、早期ALDの迅速な診断と完全なアルコール断酒はALD治療戦略において極めて重要です。

アルコール性脂肪肝、脂肪肝炎、アルコール性肝炎、線維化・肝硬変、これらの疾患がアルコール(その他遺伝など)によって発症しやすくなります。

ALDは、健康、社会、経済的な害に関連する公衆衛生上の大きな負担を引き起こしています。ALDの発症は、過度のアルコール摂取のみによって説明されるのではなく、遺伝的、エピジェネティック、環境的な修飾因子の影響を含む複雑な要因の相互作用からなることを裏付ける証拠が増えつつあります。初期段階の患者の多くは無症状であるため、定期的な検査(健康診断)が必要です。

アルコールと傷害のリスク

世界では、2019年に約450万人が傷害で死亡し、このうち7%がアルコールに直接起因しています。傷害に関連する早期の生命喪失、障害、不健康におけるアルコールの役割は広く、世界中の個人、家族、社会に及んでいます。アルコールの使用、特に酩酊状態は、様々な傷害において主要な役割を果たしており、その中にはアルコールに関連していると容易に認識できるもの(例:交通事故、暴力的暴行)とそうではないもの(例:転落、溺死、職場における傷害)があります。

アルコール関連傷害は世界の多くの社会で大きな経済的負担となっています。保健医療システムへの影響も大きく、27カ国の救急診療部(ED)受診者全体の5%から40%がアルコールによるものです。これには多額の費用がかかります。

2014年、米国では、アルコールによる傷害は、傷害に関連するすべての救急外来受診者の8%と推定され、そのコストは約90億米ドルとなり、入院患者を加えると、コストはほぼ3倍(260億米ドル)となりました。カナダの推計では、2017年のアルコールに起因する傷害の入院および日帰り手術のコストは10億カナダドル弱でした。

重要なことは、アルコール関連傷害は予防可能であり、それを減らすための効果的な介入策の明確な例があることです。例えば、飲酒運転による死亡は、1980年代に多くの高所得国で急速に減少しました。これは、飲酒運転法の強化と施行に加え、法定最低飲酒年齢の引き上げなど、より幅広いアルコール政策の転換によって推進されました。

ヒトの脳および中枢神経系に対するアルコールの薬理学的および生理学的作用

アルコールは神経毒であり、中枢神経系を抑制することが知られています。低~中程度のレベルであっても、アルコールはバランス、視覚の集中、反応時間、判断を損ない、行動を変化させることが観察されています。高用量では、意識喪失、昏睡、呼吸不全(すなわち、気道閉塞による)、誤嚥性肺炎を引き起こし、最終的に死に至ることもあります。

人間のタスクパフォーマンスをテストする実験室研究では、あらゆる種類の傷害リスクに直接関係する認知(例えば、情報処理)および精神運動機能(例えば、目と脳と手足の協調)の複数の尺度にわたって、実質的に障害があることを同定しています。アルコールの脳と中枢神経系への急性影響に関する200以上の対照実験研究の広範なレビューにより、視覚・運動制御、分割注意、集中注意、反応時間、反応抑制、ワーキングメモリに障害があることが判明しました。

低レベルから始まる急性アルコール摂取は、脳全体のグルコース代謝(ニューロン活動の代用)を減少させ、酢酸(アセトアルデヒド酸化の産物)の代謝を用量反応的に増加させることが示されています。グルコース代謝の低下は小脳(運動障害に関与)に最も集中し、一方、辺縁系領域(報酬追求行動と中毒に関与)は代謝の上昇を示しました。これらの研究はまた、アルコールによって最も影響を受ける脳中枢(すなわち、小脳、海馬、後頭葉、線条体、扁桃体)は、バランス、運動調整、注意集中、自己制御、感情刺激の処理(例えば、脅威の検出)、動機づけおよび報酬追求、空間学習および記憶が生じると考えられる領域であることを示しています。

具体的な傷害の種類

対人暴力(IV)

多くのメタアナリシスから得られた知見は、実験室での研究、地域ベースの研究、さらには複数のデザイン、設定、暴力の定義を網羅した18のレビューの最近のメタアナリシスで、アルコール使用、特に男性による使用がIVの原因因子として強く支持されています。

犯罪時の被害者のアルコール使用はIVのリスクを高めるという結論を支持する強固な証拠も存在します。

女性のアルコール使用とIVの役割については男性に比べてあまり研究されていないが、女性のアルコール使用は加害と被害の両方の危険因子として同定されています。

親や介護者によるアルコール使用、特に有害または危険なレベルでのアルコール使用は、虐待から生じる火傷、骨折、時には死亡といった子どもの身体的損傷のリスクも高めます。

自殺と自傷行為

自殺と自傷は、傷害関連の疾病負担の寄与という点では交通事故に次ぐものであり、若者の主要な死因です 。

自殺による死亡の約15%がアルコールに起因すると推定しており、100,000人以上が毎年アルコール関連の自傷行為で死亡していることを意味します。

一連のシステマティックレビューは、アルコールと自傷行為が強く結びついていることを示す強力で一貫した証拠を発見しました。これには、アルコール使用障害(AUD)のある人は自殺念慮、自傷行為、自殺完遂のリスクが高いことを示す個人レベルの研究、イベントでの大量飲酒は自殺リスクを高めることを示す研究、アルコール消費と自殺率の間の集団レベルの関連を示す集合的研究が含まれています。

因果関係の大きさについては不確実性が残っており、少なくともアルコール使用障害、酩酊状態、自傷行為には共通の根本的要因がある可能性があります。

交通事故による傷害

交通事故による傷害は、現在、全年齢の世界総死亡者数(2.9%)への寄与で第7位にランクされています。1980年頃から、多くの高所得国が交通事故死傷者数の大幅な減少を報告しています。国の交通事故死傷者数の急速な減少は約15年間続きましたが、これは主として、運転時の血中アルコール濃度の最高法定値の法制化と施行などの協調的予防努力の結果です。

この時期以降、高所得国での改善はかなり鈍化したが、世界規模では減少傾向が続き、1990年から2019年にかけて、年齢標準化した交通事故は全年齢(31%)、10~24歳(33.6%)、 25~49歳(22.5%)で減少しています。

死亡・非致死的交通事故においてアルコールが果たす因果的・用量依存的な役割は、数十年にわたる広範な観察、実験、運転シミュレーションの研究によって、十分に立証されてきました。アルコールは0.02%という低い血中アルコール濃度で、運転者や観察者が酩酊の兆候を感知するよりもかなり前に、運転性能を損なうことが示されています。

アルコール障害のある運転者は、自分自身と、同乗者、歩行者、他の運転者を含む他者への交通事故傷害リスクを高めます。自動車運転者以外にも、アルコール陽性の歩行者や自転車利用者も、交通事故による傷害のリスクが高いです。飲酒運転、若くて経験の浅い運転者は、経験の豊富な運転者に比べて重大な交通傷害のリスクがはるかに高いです。アルコール使用障害のある運転者では、交通事故リスクは依存性のない運転者の少なくとも2倍です。

転倒

転倒は罹患率と死亡率の主な原因です。驚くことではないですが、70歳以上では、転倒は傷害関連死亡の最も一般的な原因です。

頻繁な飲酒と単発の大量飲酒の両方がアルコールが関与した転倒の強い予測因子であることが示されています。

飲酒の急性測定を用いた5つの研究のメタ分析において、アルコール摂取量が10gごとに転倒関連傷害のオッズが1.15増加することを明らかにしました。

アルコール中毒と大量飲酒によるその他の傷害

大量の飲酒から生じる他の重要な形態の傷害には、誤嚥(すなわち、窒息)とアルコール中毒がある。これらは、酩酊を好む文化や蒸留酒を飲む文化の中で疎外された人々の間で特に一般的であり、例えば、東欧では他のヨーロッパ諸国よりもかなり高い割合となっています。

アルコール使用障害のある人、低所得者、旅行者は、違法(自家製)アルコールによる傷害の特別なリスクがあるように思われます。大規模な中毒の発生は多くの国で記録されており、致死率が30%に達するところもあります(例:ウガンダ、チュニジア、トルコ、パキスタン、ノルウェー、ニカラグア、リビア、ケニア、インドネシア、インド、エストニア、エクアドル、チェコ共和国、カンボジア)。

まとめ

以上みてきたように、アルコール摂取が多くの健康上の結果に大きなリスクをもたらすため、推奨されるべきではないでしょう。アルコールは発癌性物質、神経毒、肝毒、精神作用のある薬物といえます。

冒頭の国税庁のビジネスコンテストは、飲酒している人が減ってきていて税収が…というのが本音でしょう。まぁこれは、沢山飲んでいた団塊世代がだいぶお年寄り(70歳前後)になって『もうそんなに飲めねぇよ』となったケース、団塊ジュニア世代の人達は“コロナ禍で飲む機会が減った事・付き合いで仕方なく飲んでいた人が飲まなくなった”ケース、20~30代はそもそも人口が少ない、など色々な要素が絡んで国民の飲酒量が減っているわけです。

産業保護としての役割もあるとは思いますが、パイが減っている日本国内向けではなく海外向けに「Japanese SAKE」をサポートすれば良いと思います。日本酒は美味しいので。

厚生労働省は、“わが国の男性を対象とした研究では、平均して2日に日本酒に換算して1合(純アルコールで約20g)程度飲酒する者が、死亡率が最も低いとする結果が報告されている”と言っています。また、“「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する。”と記載しています。

なぜか最も死亡率が低いとされている摂取量より増やしていますが(笑)、これに則ると、1日500mℓのビールが限度という事になります。これを毎日ではなく、2日に1回ペースなら良さそうです。

とはいえ、少量でもデメリットが多く、あえて飲む必要もないので、普段から飲まない人は飲まないようにしましょう。普段から飲んでいる人はビール1日500mℓまでにしましょう。

ちなみに、私はお酒(日本酒・ウイスキー)が大好きですが、月に1~2回しか飲まないし、1回でウイスキーシングル1杯(30mℓ)しか飲みません。


参考文献

Alcohol’s Impact on the Cardiovascular System

Alcohol-Related Liver Disease: Basic Mechanisms and Clinical Perspectives

Alcohol and the Risk of Injury

厚生労働省 アルコール

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