2023.08.30

身体活動に対する金銭的インセンティブの影響

人間の脳は、自ら運動を行うようにデザインされていません。運動はあえてエネルギーを消費する行為で、言い換えれば運動することは“生命の危機に近づく行為”になるためです。

しかし、先進国においては、現代は原始時代のように食料に不足することはありません。エネルギーを確保することが容易に出来るわけです。むしろ余分なくらい。

だからこそ本能に抗って運動をしなければ、様々な健康問題を引き起こす事になります。

本能に抗いながら運動を継続していくにはどうしたらいいのか？どのようなアプローチをすればよいのか？については現在色々と議論、研究されている所です。

今回は金銭的インセンティブが身体活動を増やすのかどうかを調べた研究を紹介します。結論からいうと、金銭的インセンティブは、余暇の身体活動（ジムまたはクラスへの出席）と歩行行動（歩いた歩数）を増加させました。

目的：身体活動（PA）に対する金銭的インセンティブの効果を評価すること。

データ情報源：データ情報源：2019年7月17日までのMEDLINE、Embase、その他7つのデータベース、2つの試験登録。

研究の包含基準および除外基準： PAに対する金銭的インセンティブの効果を評価した18歳以上の成人を対象とした無作為化対照試験。群間の差がインセンティブ戦略のみであれば、比較対象は問わない。

データ抽出： 2人の独立したレビュアーがデータを抽出し、研究の質を評価した。同定された5765件の記録のうち、57件（51件のユニークな試験；n = 17 773人）が組み入れられた。

データ統合： 5つのPA領域ごとにデータをプールしたランダム効果モデル。

結果：金銭的インセンティブは、余暇のPA（ジムまたはクラスへの出席）と歩行行動（歩いた歩数）を増加させた。介入後、PAの合計分数、消費キロカロリー、PAガイドラインを満たす参加者の割合に変化は認められなかった。介入終了後、インセンティブによって余暇時間のPAと歩行行動がわずかに増加した。

結論：インセンティブはおそらく介入終了時に余暇のPAと歩行を改善し、インセンティブがなくなった後も小さな改善は長期間持続する可能性がある。インセンティブは、消費キロカロリーやPAの分数にほとんど、あるいはまったく差をもたらさない。エビデンスの確実性が低いため、インセンティブがPAガイドラインを満たす可能性を変えるかどうかは不明である。

まとめ

金銭的インセンティブは、余暇のPA（ジムまたはクラスへの出席）と歩行行動（歩いた歩数）を増加させるようです。介入終了後にも余暇の身体活動と歩行行動はわずかに増加したようです。

金銭的なインセンティブを与える事で、運動を行うようになるのはなんとなく想像が付きますが、インセンティブが終了した後も、少しの改善が長期間持続する可能性もあるという事です。運動の習慣がつくようになるという事でしょうか。金銭的報酬から、運動による脳内ドーパミン（報酬）に変化するのかもしれませんね。

今回は報酬が運動の実施に影響するのかの研究でしたが、運動と罰についても調べてみたいと思います。ヒトは得をするよりも損をする方が印象として強く残るようなので。（損失回避バイアス）

含み益を抱えているときは「損失が出ることを避ける」ため、早めに利益確定の注文を出しやすい
含み損を抱えているときは「損失を確定させたくない」ため、損切り注文をなかなか出せない

例えば、パーソナルジムの広告を作る際、2ヶ月300万円の報酬でタレントと契約するとします。ただし、マイナス7㎏を達成できなかったらこの200万円は返してください。と条件を付けると、このタレントは死に物狂いでマイナス7kを達成しようとします。

更にこの条件に、ジムのブランドイメージを守るため、1年後の測定で2㎏以上リバウンドしていたら400万円支払ってください。と加えると1年後も体重を維持する可能性が高まります。そもそも契約に至らないなんてこともあるかもしれません。笑

こういった、いわゆる罰を設けるとさらに行動が変化するため、報酬以外にも健康な行動をとらせる研究には注目しています。

参考文献

The Impact of Financial Incentives on Physical Activity: A Systematic Review and Meta-Analysis